最新記事

中国

中国テニス選手「失踪」は地政学的問題、北京五輪への災厄となる

2021年11月22日(月)10時55分
クロエ・ハダバス
中国人トップテニス選手の彭帥

彭帥は2020年2月以降、試合に出ていない(2020年1月の全豪オープンで) KIM HONG-JI-REUTERS

<共産党幹部の性的暴行を直接告発し、姿を消した彭帥選手。セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみらも擁護の声を上げ、中国は岐路に立たされている。11月21日には動画が公開されたが...>

中国人トップテニス選手の失踪騒ぎが地政学的問題に発展した。元ダブルス世界1位の彭帥(ポン・シュアイ、35)は11月2日、中国共産党幹部の性的暴行を告発。それ以来、消息不明になっている。

女子テニス協会(WTA)を含む世界のテニス団体は彭を支持。ほぼ全てのプロテニス選手も擁護に回っているようだ。

WTAが17日に受け取った彭のものとされるメールには、「家で休んでいるだけで、何も問題ない」と書かれていた。しかし、疑念は晴れていない。ツイッターでは「#WhereIsPengShuai」というハッシュタグがトレンド入りした。

彭は中国でのテニス普及に貢献したスター選手の1人。ダブルス選手として2013年のウィンブルドン選手権、2014年の全仏オープンで優勝した。2020年2月以降は試合に出ていないが、テニス関係者の誰もが彼女を気に掛けている。

中国のSNS、新浪微博(シンランウェイボー)への投稿で、彭は張高麗(チャン・カオリー)前副首相を告発した。それによると、張は彼女をテニスに誘った後、妻と共に自宅に連れ込み、性的関係を強要したという。

被害者とされる女性が共産党幹部の性的暴行を直接告発したのは、中国ではこれが初めて。♯MeTOO(私も)運動はまだ、党上層部には届いていない。

中国政府はこの件について、ほぼ沈黙を守っている。外務省報道官は外交問題ではないとして無視したが、検閲はすぐに始まった。

彭の投稿は公開後すぐに削除。SNSではこの投稿に言及する書き込みに加え、「テニス」や彭のイニシャルなどの関連キーワードの検索も制限された。

彭のメッセージとされるものには、不自然な部分がいくつもある。中国メディアが公開したスクリーンショットには、点滅するカーソルが映っており、彭以外の誰かが書いた可能性を示唆している。

WTAのトップ宛ての手紙なのに、「皆さん、こんにちは」と書かれているのも怪しい。

WTAのスティーブ・サイモンCEOは、このメールを彭のものではないと見なし、本人から直接話を聞きたいと語った。2022年中に10のイベントが開催予定だった中国からの撤退も辞さないとも述べた。

セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ、ビリー・ジーン・キング、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マレーなど、テニス関係者の大半が懸念や擁護の声を上げている。「私たちの仲間、彭帥のニュースを聞いてショックを受けている。私たちは沈黙してはいけない」と、ウィリアムズはツイートした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中