最新記事

豪中関係

中国に「ノー」と言っても無事だったオーストラリアから学ぶこと

Australia Shows the World What Decoupling From China Looks Like

2021年11月11日(木)17時49分
ジェフリー・ウィルソン(西オーストラリア大学パース米国アジアセンター研究部長)

中国が産業スパイ容疑で在中オーストラリア人を拘束した2009年、あるいは中国によるオーストラリア人政治家への贈賄疑惑が明るみにでた2017年と、政治的な摩擦はあったが、暗黙の了解は崩れず、豪中貿易は年々拡大の一途をたどった。

その暗黙の了解が昨年、突然崩れた。2020年4月、オーストラリア政府は世界保健機関(WHO)総会に向けて、不可解な点が多い中国武漢におけるコロナの発生源について独立した調査が必要だと提案。中国はこれを自国に対する侮辱、さらには政治的な魔女狩りと受け止め、猛反発した。

報復は1週間後に始まった。中国の駐オーストラリア大使・成競業はオーストラリア政府に抗議し、中国の消費者はオーストラリア製品をボイコットするだろうと警告した。さらに5月、中国政府はオーストラリア産の大麦に大幅な反ダンピング関税を課し、対中輸出でざっと10億ドルを稼いでいた大麦農家を一夜にして中国市場から締め出した。

だが中国の予想に反して、オーストラリアは屈服しないどころか、マリズ・ペイン豪外相は中国の経済的な恫喝を公然と非難した。

前代未聞の総攻撃

中国は大麦でダメなら別の手があるさ、とばかり、2倍、3倍に報復措置を拡大した。オーストラリア産牛肉から薬物が検出されたとして一部の生産者の輸出許可を取り消し、ワインにも高関税を課し、さらに小麦、羊毛、ロブスター、砂糖、銅、木材、ブドウなど、オーストラリア産品の輸入を次々に差し止めた。加えて、中国企業にオーストラリア産の石炭と綿花の利用中止を求め、電力会社にはオーストラリア産の液化天然ガス(LNG)をスポット市場で購入しないよう要請した。

通商上の報復はその後も収まらず、在オーストラリアの中国大使館は昨年11月、14項目に及ぶ苦情を書面でオーストラリア政府に突きつけ、これらが解消されなければ関係改善は望めないと警告した。

中国が貿易相手国に圧力をかけるのは、これが初めてではない。これまでに他の8カ国・地域に通商上の恫喝を行っている。カナダ、日本、リトアニア、モンゴル、ノルウェー、フィリピン、韓国、台湾だ。

しかし、その規模において、オーストラリアに対する制裁は過去に例を見ない。中国はおおむねノルウェーのサーモンや台湾のパイナップルなど、さほど重要でない産品を脅しのタネにしてきた。相手国の経済全体に及ぶような攻撃はこれが初めてだ。オーストラリアの場合、主要な品目のうち制裁対象にならなかったのは鉄鉱石のみ。その輸入を止めたら、中国の鉄鋼産業が成り立たなくなるという純粋に利己的な理由からだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中