中国に「ノー」と言っても無事だったオーストラリアから学ぶこと
Australia Shows the World What Decoupling From China Looks Like
中国が産業スパイ容疑で在中オーストラリア人を拘束した2009年、あるいは中国によるオーストラリア人政治家への贈賄疑惑が明るみにでた2017年と、政治的な摩擦はあったが、暗黙の了解は崩れず、豪中貿易は年々拡大の一途をたどった。
その暗黙の了解が昨年、突然崩れた。2020年4月、オーストラリア政府は世界保健機関(WHO)総会に向けて、不可解な点が多い中国武漢におけるコロナの発生源について独立した調査が必要だと提案。中国はこれを自国に対する侮辱、さらには政治的な魔女狩りと受け止め、猛反発した。
報復は1週間後に始まった。中国の駐オーストラリア大使・成競業はオーストラリア政府に抗議し、中国の消費者はオーストラリア製品をボイコットするだろうと警告した。さらに5月、中国政府はオーストラリア産の大麦に大幅な反ダンピング関税を課し、対中輸出でざっと10億ドルを稼いでいた大麦農家を一夜にして中国市場から締め出した。
だが中国の予想に反して、オーストラリアは屈服しないどころか、マリズ・ペイン豪外相は中国の経済的な恫喝を公然と非難した。
前代未聞の総攻撃
中国は大麦でダメなら別の手があるさ、とばかり、2倍、3倍に報復措置を拡大した。オーストラリア産牛肉から薬物が検出されたとして一部の生産者の輸出許可を取り消し、ワインにも高関税を課し、さらに小麦、羊毛、ロブスター、砂糖、銅、木材、ブドウなど、オーストラリア産品の輸入を次々に差し止めた。加えて、中国企業にオーストラリア産の石炭と綿花の利用中止を求め、電力会社にはオーストラリア産の液化天然ガス(LNG)をスポット市場で購入しないよう要請した。
通商上の報復はその後も収まらず、在オーストラリアの中国大使館は昨年11月、14項目に及ぶ苦情を書面でオーストラリア政府に突きつけ、これらが解消されなければ関係改善は望めないと警告した。
中国が貿易相手国に圧力をかけるのは、これが初めてではない。これまでに他の8カ国・地域に通商上の恫喝を行っている。カナダ、日本、リトアニア、モンゴル、ノルウェー、フィリピン、韓国、台湾だ。
しかし、その規模において、オーストラリアに対する制裁は過去に例を見ない。中国はおおむねノルウェーのサーモンや台湾のパイナップルなど、さほど重要でない産品を脅しのタネにしてきた。相手国の経済全体に及ぶような攻撃はこれが初めてだ。オーストラリアの場合、主要な品目のうち制裁対象にならなかったのは鉄鉱石のみ。その輸入を止めたら、中国の鉄鋼産業が成り立たなくなるという純粋に利己的な理由からだ。