最新記事

核軍拡

世界に核戦争をもたらすのは中国かアメリカか

China Says U.S. Bringing World Closer to Nuclear War After U.S. Military Report

2021年11月8日(月)10時36分
トム・オコナー

彼はまた、アメリカの軍事予算は中国をしのぐとも強調。米政府は「核兵器の性能を向上させるために何兆ドルもの資金を注ぎ込み、核兵器使用の基準を引き下げ、核攻撃の範囲を拡大している。そうすることで彼らは、世界の戦略的な安全保障と安定性を大きく損なわせている」

「核の狂気を演じているのが誰なのかは、世界が判断することだ」と同報道官は述べ、こうも主張した。「中国を中傷し、『泥棒が他人を泥棒呼ばわりする』策略を用いても、アメリカにとっての気晴らしになるだけで、世界を欺く行為だ」

中国もアメリカも、冷戦式の軍拡競争を行うつもりはないと否定しているが、米中両国、そして両国とほぼ同等に張り合っているロシアも、核戦力の増強に着手している。

この核兵器開発の中心にあるのが、既存の防衛システムをかいくぐる「極超音速滑空体」をはじめとする極超音速兵器だ。アメリカもロシアも、おおっぴらにこれらの兵器の実験を行っており、英フィナンシャル・タイムズ紙の最近の報道によれば、中国も2021年に入って少なくとも2回の実験を行っているようだ。

だがこの3つの核大国の中で中国は唯一、核の「先制不使用」の方針を掲げている。紛争が発生した際に、自分たちが先に核兵器を使用することはないという宣言だ。中国はまた、伝統的に陸海空における核戦力のトライアド(三本柱)を保有してこなかった。

「偏見に満ちた報告書だ」

しかし米国防総省の今回の報告書は、これらの領域に幾つかの変化がある可能性を指摘。核の先制不使用については「曖昧さ」がみられると述べ、「国の指導部に、公の場でそのようなニュアンスや条件を補足しようという意思がみられない」と指摘した。

「中国の核戦力の近代化計画には、その規模や範囲に関する透明性が欠如しており、同軍が核戦力を増強・向上させていくなか、今後に向けてどのような意図を抱いているのか疑問が生じる」と報告書は述べる。「人民解放軍の一部は、通常攻撃によって同軍の核戦力や中国共産党そのものが脅かされるような場合には、核の先制使用を認める可能性を議論している」

報告書はまた、中国は「核弾頭を搭載可能な空中発射弾道ミサイル(ALBM)の開発を進めており、陸海空それぞれの領域で核兵器を運搬できる初期段階の『核のトライアド』を既に構築している可能性がある」とも指摘した。

台湾や南シナ海のような「火種」をめぐり、米中関係が危機の瀬戸際にあるなか、中国政府は今回の米国防総省の報告書は、両国間の緊張を悪化させるものだとの見方を示した。

中国外務省の汪文斌副報道局長は4日の記者会見で、「米国防総省の報告書は、過去の同様の報告書と同じように、事実を無視し、偏見に満ちている」と述べた。「アメリカはこの報告書を利用して『中国の核の脅威』論を煽っている。世論を混乱させようとする小細工だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡

ワールド

米下院2補選、共和が勝利へ フロリダ州

ワールド

ロシア製造業PMI、3月は48.2 約3年ぶり大幅

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中