職場にしか所属コミュニティーがない日本の中高年男性の悲劇
日本の問題は、多くの生産年齢層の男性にとって職場が唯一のコミュニティーであること(写真はイメージです) metamorworks/iStock.
<40代後半から50代の男性のうち、無業者は有業者の10倍の確率で自殺に傾きやすい>
自殺とは「孤立の病」と言われる。「人は集団に属さずして、自分自身だけを目的として生きることはできない」。フランスの社会学者デュルケムの『自殺論』の一節だが、あらゆる縁から隔絶された人間の自殺率が非常に高いことはよく知られている。
縁と言っても血縁や地縁などいろいろあるが、職業生活の比重が増している現在では職縁、すなわち職業集団に属しているか否かが大きい。デュルケムも、自殺の防止に際して職業集団の役割を強調している。国家などのマクロな集団と、家族などのミクロな集団の間にある中間集団だ。
19世紀末の西洋の学説だが、21世紀の日本にもこれは当てはまるのだろうか。筆者の年代である45~49歳男性で言うと、2015年の年間自殺者数は有業者が613人、無業者が529人となっている(厚労省『人口動態職業・産業別統計』)。ベース人口では有業者が364万人、無業者が31万人ほどだ(総務省『国勢調査』)。
自殺者数を人口当たりの数(自殺率)にすると、有業者と無業者の違いがはっきりする。両者の自殺率を年齢層ごとに出し、線でつないだグラフにすると<図1>のようになる。
左側の男性を見ると、有業者と無業者の差がすさまじい。前者はほぼフラットだが、後者は加齢とともに上昇し、40代後半から50代前半にかけてピークとなる。40代後半では無業者の自殺率は有業者の9.9倍、50代後半では10.3倍だ。中高年男性では、無業者は有業者の10倍の確率で自殺に傾きやすい。
住宅ローンの返済、子どもの学費負担、親の介護など様々な役割が課せられる人生のステージで、特に男性にあっては、就労して収入を得ることへの期待が大きい。それだけに、無業であることへの圧力も大きくなる。デュルケムが指摘するような、職業集団の剥奪による自己アイデンティティー喪失のような要因も無視できない。女性でも「有業者<無業者」となっていて、今では女性にあっても職業集団が自我の拠り所となる度合いが高まっている。