最新記事

日本社会

職場にしか所属コミュニティーがない日本の中高年男性の悲劇

2021年11月4日(木)11時50分
舞田敏彦(教育社会学者)

とりわけ中高年の男性で無業者の自殺率が高いが、地域による違いもある。上述の自殺者数、ベース人口は47都道府県別に得られる。これを使って、30~50代男性の有業者・無業者の自殺率を県ごとに計算してみる。<図2>は、東京と青森のデータを棒グラフにしたものだ。

data211104-pic02.jpg

有業者と無業者の差は、東京の方が大きい。青森は5.3倍だが、東京は13.9倍もの開きがある。これは、東京の無業者の自殺率がべらぼうに高いことによる。全県のデータを見ると、「有業者<無業者」の度合いは都市部で大きい。生活水準が高い都市部では、無業であることの不利益が際立つ。「相対的剥奪」「豊かさの中の貧困」というやつだ。悩みを相談できる知人(友人)がいない、といった条件が加わると、苦悩はさらに大きくなる。先日の京王線の事件の犯人は、こうした状況に置かれていたのではないかと推察される。

人は何らかの職業集団に属さねばならない、などとは主張していない。デュルケムもそうは言っていない。日本の問題は、職場が唯一のコミュニティーであり、そこからはじき出されると辛い状況に置かれることだ(生産年齢層の男性)。生活や自我の基盤となる集団は、多様であることが望ましい。そうでないと、ブラックな職場でもしがみつかねばならず,定年退職後の生活も空疎となる。

国際比較はできないが、有業者と無業者の自殺率の差がここまで大きいのは、日本の特徴かもしれない。生き方・働き方の根本的な見直しを考える時に来ているのではないだろうか。

<資料:厚労省『人口動態職業・産業別統計』(2015年)
    総務省『国勢調査』(2015年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中