日本語を職業にする外国人だからこそ分かる「日本語の奥深さ」と「文章の極意」
しゃべり口調と口ぐせを取り入れる
パックン いいね。今までは、主に言語の違いに基づいて話しましたけど、次は、自分の文章のこだわりポイントとか、読みたくなるような、ちゃんと伝わるような文章を書くときに心がけていることを教えていただけますか。
シャハラン 私は日本国籍を取っても、とにかく外国人なんですよね。外国人である私が読んで分かりやすいかどうかをすごく気にしします。読み直して書き直しての繰り返しがメチャクチャ多いですね。
パックン 読みやすいか、伝わりやすいかどうかは、どうやって確認するんですか?
シャハラン まず私の妻が理解していなければ、他の人も理解していないと判断しています。一緒にいる人が理解できないなら、第三者はなおさら理解できないじゃないですか。そして文章を私自身がそこにいて、話をしているようにイメージしてもらいたいと考えて書いてます。
パックン シャハランさんはたしかに、しゃべり口調にちょっと近い文章だなあと思うんです。「私が日本人に対して持つ印象の中で、トップ3に入るもののひとつが~」。このニューズウィークのTokyo Eyeのコラムの書き出しも、ちゃんと「私『が』」っていう口癖からスタートしている。シャハランさんがその場に立って、しゃべっているのが少し聞こえてくるようです。いいですね。じゃあ、ハンナさんは?
ハンナ 私の場合は、研究者としての堅いコラムから、短歌とかエッセイのやわらかい文学的な文章まで、書く文章の幅がけっこう広くて。論文とか研究に関してはシャハランさんと一緒で、できるだけ分かりやすい文章で書こうと思っています。短歌とか、文学的なほうは、すごく勢いを大事にしてます。自分の心をさらけ出すっていうことを、まず考える。ネイティブの言葉遣いや文法やを一旦忘れるんですよ。下手でも間違ってもいい。とにかく心の中を言語化する作業を先にする。分量も考えずにワーッっと書く。そこから作り直す。
パックン いやでも、たしかに、英語でもmuse(ミューズ)って言いますよね。
マライ 何か文章の女神が降りてくるみたいな?
パックン そう。芸術の女神が降臨してバーッと書く、その作業、メッチャ気持ちいいですよね。
ハンナ ねー。気持ちいいですよね。
パックン で、削っていいところだけ残して。その前に締め切りが来て、「バーッ」と書いたものだけ出すっていう日も、けっこうあるけどね。
女子高生とジャーナリスト
パックン マライさんは、何にこだわってるんですか?
マライ リズムとノリかな。
一同 おー。
マライ 自分が言いたいことをノリ良く書きたいんですよね。例えばマンガやアニメからもよくインスピレーションを得てます。好きなのが、ちょっとお下品なやつで、古谷実さんの『行け!稲中卓球部』ていうマンガ。「楽しいな」「これは意外だな」とか「こういう表現したら面白いかも」ていうノリで書いてるので、「スゲー」みたいな男言葉を入れたりもします。
あとはリズムですよね。ちゃんとメッセージも伝えたいので、ノリの良い強い表現に全てが引っ張られないようにしたい。そこでその後に漢字を多く使うちゃんとした文章を使ったりとかして、リズムを作り、可能な限り読みやすい文章にはしたいと思ってます。
パックン 僕はマライさんのツイッターもフォローしてるし、同じライングループでけっこうやりとりしてるんですけど、ホントに女子高生のような口調と、ジャーナリストの口調を、上手い具合に混ぜて、面白い文章になってますよね。
(座談会後編<「君は私の肝臓!」愛の言葉にもテンプレがある日本語をもっと自由に>に続く)。
座談会参加者プロフィール:
パックン(パトリック・ハーラン)
米コロラド州出身のコラムニスト、タレント。ハーバード大学を卒業後に来日。1997年、吉田眞とお笑いコンビ・パックンマックンを結成し人気を博し、その後多くの番組にレギュラー出演。近著の『逆境力』(SBクリエイティブ)ほか著書多数。
マライ・メントライン
ドイツ北部キール出身。高校時代、大学時代にそれぞれ日本に留学した後、2008年に3度目の来日。NHKドイツ語講座などのテレビ出演、独テレビ局プロデューサー、翻訳、通訳、執筆など幅広く活動する。自称「職業はドイツ人」。
カン・ハンナ
韓国ソウル出身。タレント・歌人・国際文化研究者。2011年に来日し、20年に初の歌集『まだまだです』(KADOKAWA)で現代短歌新人賞を受賞。最近はビーガン・コスメブランドを立ち上げるなど、多方面で活躍している。横浜国立大学大学院博士課程在学中。
石野シャハラン
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日、15年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。シャハランコンサルティング代表。YouTube(番組名「イラン出身シャハランの『言いたい放題』」)でも活動中。Twitter:@IshinoShahran
<2021年10月26日号「世界に学ぶ至高の文章術」特集より>
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
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