最新記事

北朝鮮

ハニートラップに政府内スパイ、日本と韓国で北朝鮮工作員が実行したこと

2021年10月19日(火)18時52分
ジェーソン・バートレット
韓国大統領府

北朝鮮工作員が90年代、韓国大統領府で約6年間勤務を続けたという JOE SOHMーVISIONS OF AMERICAーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<脱北した北朝鮮軍の元高官の証言で、これまで北朝鮮の関与が疑われていた日本や韓国での数々の事件の実態が明らかに>

北朝鮮が1990年代前半から2010年まで、韓国で行った秘密工作の実態が明らかになった。証言したのは、脱北した元北朝鮮軍人のうち最高位の人物とされるキム・ククソン(仮名)だ。ある北朝鮮工作員が90年代におよそ6年間、青瓦台(韓国大統領府)に勤務した後、北朝鮮へ帰還したという衝撃的な事例も明かされた。

キムは先日、実名を隠して英BBCとのインタビューに応じ、30年にわたる北朝鮮情報機関での勤務体験を語った。キムによると、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は脱北者など、朝鮮労働党の敵を暗殺する「テロ特別部隊」の創設を命じたという。北朝鮮側はこれまで、そうした主張を否定してきた。

北朝鮮が国際的麻薬取引や、韓国領内での複数の事件に関与した疑惑についても事実だと証言。10年に起きた韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件と延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件もその一部だ。いずれも、北朝鮮は長らく責任を強く否定してきた。

国際社会ではもっぱら旧ソ連や中国のスパイが有名だが、北朝鮮も外国に工作員を送り込んできた。最も知名度が高いのは、韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領らの暗殺を狙った68年の青瓦台襲撃未遂事件だろう。

一方、北朝鮮はより人目につかない工作活動も実行してきた。70年代後半~80年代半ばには、自国スパイの言語・文化教育係にする目的で韓国人や日本人などの外国人を拉致し、作戦遂行に役立つ諸外国の貴重な知識を備えた信頼度の高い工作員を養成した。

特に日本では、大きな成功を収めた。既存の共産主義思想や、一部の在日韓国・朝鮮人が抱く反日感情を利用して親北団体の結成に動き、これらの組織は事実上の北朝鮮大使館として、後にはマネーロンダリング(資金洗浄)や諜報活動のハブとして機能した。

韓国の軍人たちと関係を持った「脱北者」

韓国では、政界各層への潜入・感化を目指して積極的な活動を展開してきた。北朝鮮国内序列22位と言われた諜報員の李善実(リ・ソンシル)は韓国で朝鮮労働党秘密支部を設立し、80~90年代の韓国で共産主義への支持を強化しようとした。

軍関係者から機密情報を引き出し、政治利用することを目的に女性スパイの「ハニートラップ」も仕掛けている。

脱北者を装った元正花(ウォン・ジョンファ)が、機密情報入手や有毒化学物質による要人暗殺を狙って韓国に入国したのは01年。軍人3人以上と関係を持ち、その1人である陸軍大尉から軍事機密の提供を受けていた。約7年にわたって韓国で暗躍した元の最大の暗殺目標は、主体思想の確立者で97年に韓国に亡命した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)(10年死去)だったと後に判明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ

ワールド

トランプ政権、輸入缶ビールに25%関税賦課 アルミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中