営農するアリ「ハキリアリ」、そのシャープな歯は金属製だった
エナメル質では出せない利点が
こうした研究により、ハキリアリの歯は人間の歯と違った方法で硬度を高めていることがわかった。人間の場合も歯はもっとも硬い器官であるが、これはエナメル質によって硬度が保たれている。ライブ・サイエンス誌によるとエナメルは、炭素・水素・酸素原子を核として、周囲をカルシウムとリン酸塩の分子が結晶構造で覆っている。これによって硬度が上がる反面、細く鋭い形状を形成できない制限がある。
一方、ハキリアリの歯はタンパク質の周囲を網目状の亜鉛がコーティングしている。研究チームはこれを「重元素バイオマテリアル」と命名し、エナメル質に匹敵する強度とシャープなエッジを両立できる構造だと述べている。鋭い角度とすることで、最小限の筋肉量でより大きな切断効果を発揮できることが利点だ。
交換の効かない歯、鈍ったときは?
鋭い歯をもつハキリアリといえど、徐々にその切れ味は衰えてゆく。アリは食事にほとんど歯を使用しないが、「農業」を生活の糧とするハキリアリにとって、歯の衰えは死活問題だ。しかし、健康な歯を失ってなおコミュニティの一員として活躍できるよう、「転職」の社会システムがコロニーに備わっている。
歯の劣化にともなって生産性が3分の1ほどにまで落ちると、その個体は葉を切り裂く仕事からお役御免となる。かわりに運び屋などの職業にポジションを変え、別の形でコロニーに貢献できるようになっている。
ハキリアリの職業変更システムについては、2010年の論文で明らかにされた。研究を主導したのは同じくオレゴン大のロバート・スコフィールド博士だ。博士は人間の社会生活とも似たメリットがあるとし、「人は例え特定のタスクをこなせなくなって一人で生きてゆけなくとも、それでも社会に対して意義深い貢献をすることができます」と述べている。
作物の栽培から引退後の再就職まで、ハキリアリは人間社会によく似た社会に生きているようだ。
Close up of leaf cutter ants cutting (from above)