中国停電の真相──背景にコロナ禍を脱した中国製造業への注文殺到も
これを受けて国家エネルギー局は9月29日、記者会見を開いて、東北三省の冬季における暖房を保障することや外部送電について調整すると回答しており、また今後は必ず民生用電力を確保すると発言している。
脱炭素をめぐる習近平のジレンマ
それにしても習近平はなぜこのような混乱をきたすような厳しい通知を出させたのだろうか?
その原因の一つは、2020年9月の国連におけるビデオ演説で「中国は2060年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする」と宣言したことに求めることができる。
このときはまだトランプ政権だった。トランプ前大統領はパリ協定から離脱し、環境問題などフェイクニュースだとして背を向けていた。そこで習近平としては「わが中国はアメリカとは違い、国際協調を重んじている」というところを見せたかったのだろう。
ところがバイデン政権になると一転し、クリーンエネルギー重視を前面に打ち出し、アメリカもまた「2050年までにはカーボンニュートラルを実現する」と宣言した。アメリカは中国よりも遅れて宣言したにもかかわらず、バイデン政権はケリー気候変動問題担当大統領特使を何度も訪中させては中国にクリーンエネルギー実現に向けて「協力しろ」と圧力をかけている。
アメリカに言われなくとも中国はトランプ政権時代から宣言していると習近平は言いたいだろうが、バイデン政権は「中国の製造業における一人勝ちを阻止するため」にも、中国へのクリーンエネルギーに関する圧力を緩めないだろう。
一方、習近平は早くも2015年に、パリ協定の気候変動会議開催にあたり、ロイターの取材に対して「発展途上国と先進国の環境問題を一律の同じ尺度で測るのは不適切であり不公平だ」という趣旨の回答をしている。開発のニーズや能力も異なり、スタートラインも違えば、発展段階も異なるのに先進国の尺度を発展途上国に強要するのは不公平だというのが習近平の持論だ。開発のニーズや能力も異なり、スタートラインも違えば、発展段階も異なるのに先進国の尺度を発展途上国に強要するのは不公平だというのが習近平の持論だ。
さりながら、世界が一斉に「カーボンニュートラル」に向かって走り始めた今、「世界市場」という視点に立った時に、中国だけが取り残されるわけにもいかない。
たとえばEVなど、やがてクリーンエネルギーによって世界の製品が出来上がっていくような状況になった時、中国だけが温室効果ガスを排出するような製品を生産していたのでは、世界市場で勝負できなくなっていく。同じクリーンエネルギー製品で競争しなければ、米中覇権競争にも勝てない。
したがってアメリカに言われなくても、中国自身がクリーンエネルギーへの転換を市場戦略の一つとしてチャレンジしているところだ。
そのチャレンジの途上での「停電」現象には、中国社会の構造的問題も潜在している。発展途上国でありながら、ハイテク産業においては世界最先端で勝負しようとする習近平の複雑に絡んだジレンマが、そこにはあるのではないだろうか。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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