最新記事

ドイツ

ドイツ新首相、候補者3人の誰にも希望を見いだせない悲しい現実

Three Candidates, No Answers

2021年9月23日(木)09時40分
ピーター・クラス
ドイツ総選挙

9月12日の首相候補テレビ討論会に参加した(左から)ショルツ、ベーアボック、ラシェット MICHAEL KAPPELER-POOL-REUTERS

<メルケル退陣後の侘しいドイツ政界。次期首相選びにつながる総選挙が9月26日に迫るなか、主要3党の代表は非難合戦に終始した>

ドイツ人にユーモアは似合わないが、意図せずして私たちを笑わせてくれることはある。いい例が、去る9月12日に行われた主要3政党の首相候補によるテレビ討論会だ。

登壇したのは緑の党のアンナレーナ・ベーアボック、引退するアンゲラ・メルケル首相と同じキリスト教民主同盟(CDU)のアーミン・ラシェット、連立与党の社会民主党(SPD)を率いるオーラフ・ショルツ(現職の財務相でもある)の3人。

ドイツらしい理詰めの議論が繰り広げられるかと思いきや、結果はベテラン男性2人(ショルツとラシェット)が派手に罵り合い、間に挟まれた若い女性(ベーアボック)は途方に暮れて見守るのみというマンガ的な展開だった。

司会役もお粗末だった。実のある議論を引き出せず、初歩的な不手際も目立った。

そもそもドイツでは、こうしたテレビ討論会がアメリカほどに定着していない。2002年に初めて実施され、以後は総選挙時の慣例となったが、選挙で有権者が選ぶのは政党であって個人ではない。勝った党が首相を選ぶ。ヒトラーのようなカリスマ性の強い人物の台頭を防ぐために採用された制度だ。

しかし今年の総選挙(投票は9月26日)に限って言えば、各党の「選挙の顔」にはカリスマのかけらもない。

鼻であしらわれたラシェット

CDUのラシェットは好感度の高い柔和な感じの男で、地元ノルトライン・ウェストファーレン州では人気だったが、先の大洪水による被害などで逆風が吹き始めると、下劣な面が顔を出してきた。あの洪水で気候変動に対する考え方は変わったかと問われたとき、彼が52歳の女性記者に向かって「お嬢さん」と呼び掛けたのは有名な話だ。

当初こそ最有力と目されていたラシェットだが、その後の支持率は下がるばかり。だから討論会では反撃に出たつもりらしいが、支持率トップで中道左派のショルツをいくら批判しても、小型犬が猛犬に向かってほえているようにしか見えない。相手のスキャンダルをいくら指摘しても、鼻であしらわれていた。

政策の訴えも下手だった。コロナ危機対策で増税が必要になるかと問われたとき、保守本流のラシェットは、増税すれば経済の体力が落ちるから結果として国庫の収入は減る(だから増税はしない)と述べた。減税してこそ税収は増えるという奇妙な理屈の焼き直しだが、あまりにも庶民感覚と懸け離れている。

緑の党のベーアボックは、この討論会でいちばん気楽な立場のはずだった。メルケルという大看板を失ったCDUは、右からは極右政党ドイツのための選択肢(AfD)に攻め立てられ、左からはコロナ対策の責任を追及される苦しい立場。連立を組むSPDも独自色を出しにくい。

それに比べて、緑の党はぶれない。気候問題や社会正義に関する問題で重ねてきた実績を武器に、初めて首相の座を狙える位置につけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中