最新記事

火星移住

ヒトの血や尿と火星のレゴリスからコンクリートのような材料を生成する技術が開発される

2021年9月17日(金)17時30分
松岡由希子

地球外物質とヒトの血液や尿、汗、涙からコンクリートのような材料を生成する技術 (University of Manchester)

<英マンチェスター大学の研究チームは、火星で居住空間を建設することを想定し、現地資源利用(ISRU)の新たな手法として、地球外物質とヒトの血液や尿、汗、涙からコンクリートのような材料を生成する技術を開発した>

火星で人間の居住空間を建設するための資材を地球からすべて運び込むのは非現実的だ。れんが1個を火星まで運搬するコストは約200万ドル(約2.2億円)と推定されている。

英マンチェスター大学の研究チームは、現地資源利用(ISRU)の新たな手法として、地球外物質とヒトの血液や尿、汗、涙からコンクリートのような材料を生成する技術を開発し、2021年9月10日、学術雑誌「マテリアルズ・トゥデイ・バイオ」で研究論文を発表した。

血液のほか、尿や汗、涙から排泄される尿素を加えると、強度は3倍以上に

動物の血液をモルタルの接着剤として使う手法は中世から用いられてきた。研究チームは、この伝統的な手法から着想を得、ヒト血漿タンパク質の多くを占めるヒト血清アルブミン(HAS)を月や火星のレゴリス(表土)の接着剤に用い、コンクリートのような地球外レゴリスバイオ複合材料を生成することに成功した。

ヒト血清アルブミンのほか、合成スパイダーシルクやウシ血清アルブミンもこの接着剤として有効であったという。

「アストロクリート」と名付けられたこの材料の強度は25メガパスカルで、強度20〜32メガパスカルの一般的なコンクリートとほぼ同等だ。さらに尿や汗、涙から排泄される尿素を加えると、強度は3倍以上高まり、39.7メガパスカルに達するものもあった。

3D-Printed-Mars-Biocomposite-777.jpeg

3Dプリンターで出力されたアストロクリート Credit: University of Manchester


「アストロクリート」は3Dプリンターで出力できるのも利点だ。地球外の建設に道を拓く新たな建材として期待されている。

「火星移住の初期段階で大きな役割を果たしうる」

研究チームは、宇宙飛行士6名のクルーによる2年の火星ミッションで、500キロ以上の「アストロクリート」を現地生産できると見込んでいる。しかし、低重力かつ放射線量の高い火星で、宇宙飛行士の健康に影響を及ぼすことなく、どれくらいの血漿が採取できるのかは現時点で不明だ。植物由来のタンパク質の活用など、他の手法の研究も必要となるだろう。

研究チームは、「『アストロクリート』が火星移住の初期段階で大きな役割を果たしうる」と期待を寄せる一方で、「成熟に伴って、多用途のバイオリアクターなど、他の技術に次第に置き換わっていくのではないか」とみている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中