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所得格差と経済成長の関係──再配分政策が及ぼす経済的影響

2021年9月13日(月)14時28分
鈴木 智也(ニッセイ基礎研究所)

以上を踏まえれば、日本の所得格差について、その水準的な議論は分かれるところであるが、全体的な格差の拡大は、ひとまず抑制された状況にあると言える。ただし、所得階層が低いところでは、ひとり親世帯で相対的貧困率が高い状況にあるなど、税制や社会保障などの再分配機能が、十分に機能していない面もあり、このような層を特定して的を絞った費用効果的な対策を取っていくことが、今後の課題となるだろう。

なお、この先の所得格差については、気になる研究結果も示されている。例えば、親と同居する未婚者に注目した研究7では、非正規雇用や失業によって本人収入が減少した壮年未婚者(35~49歳層)の男性で、親との同居によって生活費などを補填する傾向にあることが指摘されている。このような状況は、世帯調査を通じて把握されない部分であり、将来的に所得格差を拡大させる要因として顕在化する可能性が懸念されるところである。コロナ禍による影響も含め、格差拡大の状況には、一層の注意を払っていく必要があると言える。

5――おわりに

本稿では、所得格差と経済成長の関係について、理論面を中心に整理してきた。学術的には、両者の関係にコンセンサスは形成されていないものの、低成長が続く日本では、所得格差の是正が倫理面だけでなく、経済成長にもつながり得るとする視点は重要である。日本の所得格差は、ひとり親世帯や子どもの貧困、格差の固定など多様な側面を持つことから、今後も重要な政策課題として注目を集めるだろう。

―――――――――――
5 内閣府「平成21年度 年次経済財政報告」

6 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)

7 白波瀬佐和子,「人口構造の変化と経済格差」日本労働研究雑誌 2018年1月号(No.690)

【参考文献】

・Kholeka Mdingi,Sin-YuHo," Literature review on income inequality and economic growth" MethodsX vol.8 (2021)

・井上誠一郎,「日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について」RIETI Policy Discussion Paper Series 20-P-01 2020年6月

・白波瀬佐和子,「人口構造の変化と経済格差」日本労働研究雑誌 2018年1月号(No.690)

・Era Dabla-Norris, Kalpana Kochhar, Nujin Suphaphiphat, Frantisek Ricka, Evridiki Tsounta, "Causes and Consequences of Income Inequality: A Global Perspective" IMF STAFF DISCUSSION NOTE, JUNE 2015.

・深澤映司,「格差と経済成長の関係についてどのように考えるか」レファレンス 平成27年2 月号

・櫨浩一,「巻き起こる格差議論~ピケティ「21 世紀の資本」の意味~」ニッセイ基礎研所報 June 2015(Vol.59)

・Jonathan D. Ostry, Andrew Berg, and Charalambos G. Tsangarides, "Redistribution, Inequality, and Growth" IMF STAFF DISCUSSION NOTE, February 2014. ・OECD Social, Employment and Migration Working Papers, December 2014


[執筆者]
SuzukiTomoya_Profile.jpeg[執筆者]
鈴木 智也 (すずき ともや)
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任

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