東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し
なお、人口100万人あたりの新規感染者数(7日間移動平均)をみると、マレーシアが653人と最も多く、タイ(307人)や日本(177人)だけでなく、5月上旬に爆発的な感染拡大が生じたインド(最大283人)をも大きく上回る水準にある(図表4)。感染者数や死亡者数でみると人口の多い国が目立つが、人口100万人あたりの新規感染者数をみることで各国の深刻さが浮き彫りになる。
2――ASEAN5各国の感染状況と政府の封じ込め措置
[インドネシア:感染状況の改善が進み、ジャカルタ首都圏の行動規制を緩和]
インドネシアの新規感染者数の推移インドネシアでは、政府がイスラム教の断食明け大祭(レバラン、2021年は5月13~14日)に合わせて帰省禁止措置(6~17日)を実施し、5月末まで帰省の取り締まりを強化したが、人の流れを十分に抑制することできず、その影響は6月に入って顕在化して感染第2波が到来した(図表5)。1日あたりの新規感染者数は7月中旬に5万人に達し、患者用ベッドや医療用酸素が不足するなど医療体制は逼迫した状態となった。
インドネシア政府は感染再拡大を受けて7月初旬から人口の多いジャワ島と観光地のバリ島に緊急活動制限(PPKMダルラット)を実施、出社を原則禁止するなど人の移動を大幅に制限した。その後は各種の行動制限の効果が浸透して新規感染者数がピークアウト、足元では1日あたりの新規感染者数は1万人台まで減少してきている。インドネシア政府は感染状況に改善がみられるとして、8月から出社制限の緩和や商業施設の営業再開など慎重に経済再開を進めており、さらに30日にはこれまで感染リスクの高い「レベル4」地域に指定していたジャカルタ首都圏などでも1段階低い「レベル3」への移行を決定している。
[タイ:都市封鎖の対象地域拡大により感染状況改善の兆し]
タイの新規感染者数の推移タイでは今年4月中旬のタイ正月(ソンクラーン)に伴う旅行や帰省が増えたことがきっかけとなり、感染第3波が発生した。1日あたりの新規感染者数は4月初の100人未満から6月末には5,000人程度まで増加した(図表6)。この間、タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限など行動規制を次第に強化していったが、デルタ株の猛威を止められず、感染拡大ペースは加速した。
タイ政府は7月中旬に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に夜間外出禁止など事実上の都市封鎖措置を発令し、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大したほか、工場労働者や建設現場の作業員に対して自宅や工場以外への移動を制限するバブルアンドシールの追加措置を講じるなど行動規制を強化する動きを続けた。こうした厳格な感染対策が奏功して、1日あたりの新規感染者数は8月13日の約2万3,000人をピークに改善に転じ、足元では2万台を割ってきている。第3波はピークアウトの兆しが見えつつある。