最新記事

ビジネス

東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し

2021年9月7日(火)14時22分
斉藤誠(ニッセイ基礎研究所)

なお、人口100万人あたりの新規感染者数(7日間移動平均)をみると、マレーシアが653人と最も多く、タイ(307人)や日本(177人)だけでなく、5月上旬に爆発的な感染拡大が生じたインド(最大283人)をも大きく上回る水準にある(図表4)。感染者数や死亡者数でみると人口の多い国が目立つが、人口100万人あたりの新規感染者数をみることで各国の深刻さが浮き彫りになる。

2――ASEAN5各国の感染状況と政府の封じ込め措置

[インドネシア:感染状況の改善が進み、ジャカルタ首都圏の行動規制を緩和]

インドネシアの新規感染者数の推移インドネシアでは、政府がイスラム教の断食明け大祭(レバラン、2021年は5月13~14日)に合わせて帰省禁止措置(6~17日)を実施し、5月末まで帰省の取り締まりを強化したが、人の流れを十分に抑制することできず、その影響は6月に入って顕在化して感染第2波が到来した(図表5)。1日あたりの新規感染者数は7月中旬に5万人に達し、患者用ベッドや医療用酸素が不足するなど医療体制は逼迫した状態となった。

nissei20210906195105.jpg

インドネシア政府は感染再拡大を受けて7月初旬から人口の多いジャワ島と観光地のバリ島に緊急活動制限(PPKMダルラット)を実施、出社を原則禁止するなど人の移動を大幅に制限した。その後は各種の行動制限の効果が浸透して新規感染者数がピークアウト、足元では1日あたりの新規感染者数は1万人台まで減少してきている。インドネシア政府は感染状況に改善がみられるとして、8月から出社制限の緩和や商業施設の営業再開など慎重に経済再開を進めており、さらに30日にはこれまで感染リスクの高い「レベル4」地域に指定していたジャカルタ首都圏などでも1段階低い「レベル3」への移行を決定している。

[タイ:都市封鎖の対象地域拡大により感染状況改善の兆し]

タイの新規感染者数の推移タイでは今年4月中旬のタイ正月(ソンクラーン)に伴う旅行や帰省が増えたことがきっかけとなり、感染第3波が発生した。1日あたりの新規感染者数は4月初の100人未満から6月末には5,000人程度まで増加した(図表6)。この間、タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限など行動規制を次第に強化していったが、デルタ株の猛威を止められず、感染拡大ペースは加速した。

nissei20210906195106.jpg

タイ政府は7月中旬に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に夜間外出禁止など事実上の都市封鎖措置を発令し、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大したほか、工場労働者や建設現場の作業員に対して自宅や工場以外への移動を制限するバブルアンドシールの追加措置を講じるなど行動規制を強化する動きを続けた。こうした厳格な感染対策が奏功して、1日あたりの新規感染者数は8月13日の約2万3,000人をピークに改善に転じ、足元では2万台を割ってきている。第3波はピークアウトの兆しが見えつつある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中