最新記事

アフガニスタン

タリバン復活の理由、欧米の押し付け以外に「経済的必然」もあった

AN ECONOMIC DEBACLE

2021年9月6日(月)16時10分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
首都カブールの野外で日用品を売る男性

生活水準の改善がカギ(首都カブールの野外で日用品を売る男性) OMAR SOBHANI-REUTERS

<トップダウン方式で国家の仕組みを押し付けようとしたことが裏目に出たという指摘があるが、それだけではない。アフガニスタンは高成長を経験した後、経済成長が停滞していた>

アフガニスタンにおける国家建設の試みは明らかに失敗に終わった。

マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授が指摘しているように、地域ごとに異なる慣習と規範を持つ国に、欧米諸国がトップダウン方式で国家の仕組みを押し付けようとしたことが裏目に出た面もあったのだろう。だが、原因はそれだけではなく、経済的要因も作用していた。

アフガニスタンは1人当たりの所得が500ドル程度という最貧国だが、問題の本質はそこにはない。所得上昇のスピードが問題なのだ。

革命と内乱に関する研究によると、速いペースで経済成長を遂げている国では政情が安定する。この点は、その国が豊かか貧しいか、民主主義かそうでないかに関係なく見られる傾向だ。

要するに、経済成長は国内の対立を封じ込める効果を持つ。

しかし、高成長を経験した国の国民は、生活水準がずっと上昇し続けるという期待を抱く。成長が停滞したり退行したりして、その期待が裏切られれば、社会不安が増す可能性が高い。

アフガニスタンはこのパターンに当てはまる。2011~12年頃までは経済が急速に成長していたが、この時期を境に成長が停滞し始めたのだ。

それが国民の生活水準に及ぼした影響を正しく理解する上では、GDP(国内総生産)よりも輸入やエネルギー消費のデータに着目したほうがいい。

アフガニスタン国内では工業製品がほとんど生産されていないため、国内で消費される工業製品はほぼ全面的に輸入に頼っている。従って、国内消費の規模を映し出す最良の(もしくは最もましな)指標は輸入額だ。

その点、2001年にタリバン政権が崩壊して以降10年ほどの間に、アフガニスタンの輸入額は10倍近くに増加した。ところが、2011~12年以降は、人口が増え続けているにもかかわらず、輸入額の伸びが停滞している。

これは、国民の生活水準が落ち込んだことを意味する。その結果として、国民の不満も高まっていったのだろう。

エネルギー消費の状況も同様だ。2001年の時点で20%程度だったアフガニスタンの電力普及率は、現在95%に達しているが、近年は普及が停滞している(普及率が100%近くになれば、それ以上、その割合を引き上げることが難しくなるのはやむを得ないことだが)。

国外からの援助が増え続ければ、国民の不満を和らげられるかもしれない。

しかしアメリカは、アフガニスタン国民の生活水準を向上させ続けるのに十分な援助を継続するつもりがなかった。

【関連記事】タリバンがブラックホークを操縦する異常事態、しかも誰かぶら下がっている!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中