最新記事

テロ組織

アフガニスタン、複雑怪奇なテロ組織の協力と対立の関係を紐解く

The Close Ties

2021年9月8日(水)11時58分
サジャン・ゴヘル(アジア太平洋財団ディレクター)

その直後にアフガニスタンの情報機関、国家保安局は対テロ作戦として、IS-Kのパキスタン人指導者アスラム・ファルーキ(別名アブドラ・オラクザイ)の身柄を拘束した。ファルーキは、IS-Kがハッカニ・ネットワークだけでなく、パキスタンの悪名高いイスラム過激派組織のジャイシェ・ムハマド(ムハマドの軍隊)やラシュカレ・トイバとも協力していたことを明らかにした。

ラシュカレ・トイバは08年に、少なくとも165人の犠牲者を出したムンバイ同時多発テロを実行した。02年にパキスタンで米国人ジャーナリストのダニエル・パールを誘拐・殺害した主犯格のパキスタン系イギリス人、アハメド・オマル・サイード・シェイクは、ジャイシェ・ムハマドで名の知れた存在だった。

テロリストの役割は明確に分かれていた。IS-Kの新兵は、パキスタンのジャイシェ・ムハマドの軍事キャンプで訓練を受ける。ラシュカレ・トイバはアフガニスタンで標的の偵察に加わり、社会的、経済的、政治的な影響を与える準備をする。

ハッカニ・ネットワークはその犯罪リソースを通じて、調整とロジスティック計画を担当する。IS-Kは使い捨ての戦闘員を提供し、攻撃の全体的な責任を負う。

20年5月12日、IS-Kの武装集団がカブールで「国境なき医師団」が支援する産科医療施設を襲撃。病院スタッフや陣痛の最中の女性、新生児を銃撃した。

ザルメー・カリルザド米アフガン和平担当特別代表は、襲撃の責任はIS-Kにあると述べた。タリバンを非難しなかったことにアフガニスタン全土で批判が高まり、和平交渉を継続するためにタリバンのイメージを重視したのではないかと指摘された。

今年5月8日にはカブールの高校の近くで爆破テロが起き、女子生徒を中心に90人が死亡している。

ハッカニの手には米国製のM4ライフルが

ハッカニ・ネットワークは氏族単位の組織で、主要メンバーのハリル・ハッカニは、アルカイダ側へのタリバンの特使と見なされている。彼は最近、タリバンの首都警備の責任者としてカブールに凱旋した。ハッカニは米国製のM4ライフルを携え、護衛部隊は米国製の装備を身に着けていた。全てここ数週間でタリバンが強奪したものだ。

国外退避の警備を担当していたのがタリバンのどの派閥だったにせよ、多くのアフガニスタン人が空港にたどり着くのを阻止したタリバンの検問所が、なぜ攻撃者を阻止できなかったのか。その点は検証が必要になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中