「パックス・アメリカーナ」はアフガンで潰え、テロと中国の時代が来る
PAX AMERICANA DIED IN KABUL
撤退に向け輸送機に格納される米軍ヘリ・ブラックホーク SGT. 1ST CLASS COREY VANDIVERーU.S. ARMYーHANDOUTーREUTERS
<不名誉な形でのアメリカ最長の戦争の終わりは、「アメリカによる平和」と「欧米の覇権」の終わりを象徴する出来事となる>
バイデン米大統領が性急かつお粗末なやり方で米軍撤退を進めた結果、アフガニスタンは敵の手に落ち、アメリカ最長の戦争は不名誉な形で幕を閉じた。この瞬間、以前からほころびが目立っていたパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)と、長年にわたる欧米の覇権は終焉を迎えたと言えそうだ。
既に中国の深刻な挑戦に直面しているアメリカにとって、この戦略的・人道的大失態が国際的な地位と信頼性に与える打撃は回復不能かもしれない。アメリカの同盟パートナーは、自分たちが危機に陥ってもアメリカは当てにならないと感じたはずだ。
アメリカが同盟相手を見捨てるのは、今回が初めてではない。最近も2019年秋にシリア北部のクルド人を見放し、前進するトルコ軍の前に放り出した。
アフガニスタンにおける自業自得の敗北と屈辱は軍事的リーダーシップではなく、政治的リーダーシップの失敗によるものだ。バイデンは現地の状況を省みず、軍首脳の意見を無視して米軍の帰還を命じた。その結果、20年に及ぶアフガニスタン戦争は反政府勢力タリバンの「政権奪還」という形で終わった。
ベトナムでは5万8220人の米国人(主に徴集された兵士)が戦死したのに対し、アフガニスタンで20年間に命を落とした米兵は2448人(全て志願兵)だった。しかし、敗北の地政学的意味合いはベトナム戦争よりはるかに大きい。
パキスタンで生まれ育ったタリバンに世界的野心はないかもしれないが、その暴力的なイスラム主義思想は、非スンニ派イスラム教徒に対する敵意を現代社会に対する怒りに変えるイスラム過激派の国際的運動と深くつながっている。
世界的なテロの再燃を後押し
タリバン政権の復活は他の過激派グループを勢いづけ、世界的なテロの再燃を後押しするはずだ。
タリバンが支配する「アフガニスタン・イスラム首長国」は、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)の残党、パキスタンのテログループなどの聖域になる可能性が高い。
最近の国連安全保障理事会の報告書によると、「タリバンとアルカイダは依然として緊密に連携」しており、パキスタン情報機関と関係が深いハッカニ・ネットワークを通じて協力を維持している。
シリアという国家の崩壊はISによる「カリフ国」宣言とイラクへの勢力拡大を招き、ヨーロッパに大量の難民を流入させた。世俗的な民主主義国家アフガニスタンを建設しようとした試みの失敗は、それよりはるかに大きな脅威になるはずだ。
アフガニスタンにおけるタリバンの絶対的権力は、遅かれ早かれアメリカの国内外で安全保障上の利害を危険にさらすだろう。