最新記事

生態

ドングリキツツキの新たな生態が判明 一夫多妻制で繁殖を有利に

2021年8月23日(月)19時00分
青葉やまと

兄弟・姉妹が子育てをお手伝い

一夫多妻制以外にもドングリキツツキは、兄弟姉妹が育児に参加するというめずらしい習性で知られている。最大16羽ほどの成鳥が集団でヒナの世話をし、育ったヒナも数年ほど巣に留まる。次の世代として生まれてきた若いヒナの世話をし、育ててから巣立ってゆくのだ。

これに対し自然界の多くの生物は一夫一婦制を取り、営巣や子育てに関しても各ペアが独立して行う。ドングリキツツキのような社会生活は例外的であることから、自然界から淘汰されつつあるのではないかとの考えが生物学界では一般的だった。

バーヴ博士はこうした見解に対し、実は親族の子育てを手助けする行為にも、進化上のメリットがあるのだと説明している。進化学上有利とされる基準のひとつに、いかに集団の遺伝子のなかに自分のDNAをより多く広めることできるか、という観点がある。この観点において、たとえば自分の4分の1の血を引く甥っ子を2羽育てることは、自分の2分の1の血を引く実の子を1羽育てることと等しい意義をもつのだ、と博士は説く。

さらに博士によると、集団での育成により生存率が向上するなど、種全体に遅効性のメリットが発生しているのだという。

既存の考え方においては、親族の子育てを手伝うことは、自身で子孫を残すことができない場合の最後の手段だと捉えられてきた。積極的に共同で営巣するドングリキツツキの習性は、こうした常識とは異なる新たな価値観を提唱するものとなりそうだ。

高い社会性の反面、凶暴な一面も

以上のように共同で子育てにあたるドングリキツツキは、高い社会性を備えた鳥だといえるだろう。一方、コミュニティの支配をめぐり、異常なまでの闘争心をむき出しにすることもある。

通常は2羽から16羽ほどのコミュニティで生活するドングリキツツキだが、ときに何らかの事情で、グループに属する成鳥のオスまたはメスのすべてが死んでしまうことがある。残された繁殖可能なメスまたはオスをめぐり、複数のグループが激しい争いを繰り広げる。

闘いは熾烈そのものだ。加勢した鳥たちは翼を折られ、地面へ墜ちてしまうこともめずらしくない。目をえぐり取られたり、最悪の場合には怪我によって命を落としたりすることもある。米科学技術誌の『ポピュラー・サイエンス』は、ときに40羽もの鳥が争いに加わり、最大で1日10時間、連続4日間ほど血みどろの戦いを展開すると解説している。元のグループは勝ち抜いた集団を受け入れ、新たなコミュニティとして繁殖活動を再開する。

こうした高い戦闘力と優れた社会性をもつドングリキツツキだが、ときに微笑ましい一面を見せることもある。ニューヨーク・タイムズ紙は昨年、うっかり巣を手薄にしてしまうという習性を明かしている。激しい戦闘が発生すると遠くのテリトリーからもドングリキツツキたちが偵察あるいは野次馬に現れるが、移動に大量のエネルギーを消費するうえ、自分たちの本来の巣が手薄となる。争いを見物しているうちに、せっかく蓄えたドングリを奪われてしまうこともあるのだという。

ドングリキツツキは、北アメリカおよび中央アメリカに分布する。計画的な貯蔵にコミュニティ単位での育児にと、さまざまな表情を見せてくれる野鳥だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米関税の影響注視、基調物価の見通し実現なら緩和度合

ワールド

パキスタン、貿易停止など対抗策 観光客襲撃巡るイン

ビジネス

G7は結束維持、米関税巡る緊張も=議長国カナダ財務

ビジネス

関税対策パッケージ決定、中小企業の多角化など支援=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中