最新記事

アフガニスタン

アフガン難民危機がくる、「EUだけでは手に負えない」(マクロン)

EU Received Over 4,600 Afghan Asylum Applications Since May, Prompting Migrant Wave Concern

2021年8月18日(水)21時13分
ジュリア・マーニン
米軍輸送機にすし詰めのアフガン人

恐怖に駆られ、カブール空港で米軍輸送機に殺到した約640人のアフガン人 U.S. Air Force/REUTERS

<突如、実権を掌握したタリバンの支配を恐れるアフガン人が、国外へ逃れてくる。2015年のシリア難民危機以来の対応を世界は迫られることになる>

8月15日、アフガニスタンの反政府勢力タリバンが全土を掌握、首都カブールを陥落させたことで、アフガン難民危機への懸念が広がっている。米軍の撤退方針が明らかになった2月以降、欧州連合(EU)の欧州庇護支援事務所(EASO)には多くの難民申請が寄せられるようになっており、5月には月4648件に達していたと、AP通信は報じている。

加盟国の外相は8月17日に緊急会合を開き、タリバンの政権掌握がもたらす安全保障面の影響について議論した。EUの推計によると、2015年以降、難民申請を行ったアフガニスタン国民は約57万人に達する。シリア難民に次ぐ大規模な集団だ。

8月16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、仏独をはじめとする欧州各国は共同で、難民認定はできない不法移民の新たな大波に「確固たる対応」をするとしながら、「欧州だけでは責任を負えない」と付け加えた。

背景には、厳格なイスラム主義組織であるタリバンの支配を恐れるアフガニスタン人が、大量の難民となって流出するという危惧がある。

ドイツのハイコ・マース外相は緊急会合の主要議題は、アフガニスタン在住のEU市民およびEU関連施設で働くアフガニスタン人スタッフの国外退避、タリバンへの対応、そして、アフガニスタン難民が大量に逃れてきた場合いかにして地域の不安定化を防ぐかだ、と語った。

「我々は、事態の進展を注視している。現在アフガニスタンで権力を行使している者たちの正当性は、その行動によって判断される」と、マースはベルリンの記者団に語った。「とりわけアフガニスタン周辺地域の安定化は重要だ。近隣諸国がさらなる難民の流入に直面するのは確実だからだ」

欧州の国々は、2015年にシリア内戦から逃れた大量のシリア難民が押し寄せた時の危機の再燃を懸念している。2015年の欧州難民危機では、主にシリアとイラクからゆうに100万人を超える移民が押し寄せた。対応をめぐって各国の足並みは乱れ、EUの団結にとって最大級の危機が発生した。

マクロンは、難民の波に対する「確固たる対応」は、アフガン難民が途中で通過するであろうトルコを含む各国との協調による取り組みになると述べた。

オーストリアは、18日のEU内相会議で、難民認定できなかった申請者の本国送還業務を担うセンターを、EU域内ではなくアフガニスタンの近隣諸国に設置するよう提案する計画だ。難民申請のうち難民認定が得られるのは約半分ほど、というのがこれまでの傾向だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中