過密に悩むパレスチナ自治区ガザ 歴史ある住宅も取り壊し高層化
ガザでは何年にもわたり、新規の住宅需要に供給が追いついていない。住民の70%が難民で、多くは難民キャンプで暮らしており、未完成の高層住宅があちこちに見られる状況だ。
建設関係者によれば、供給不足の一因は、イスラエルの封鎖措置によって人と、建設資材を含む物資の流れが制限されており、そのうえエジプトによる制限もあるからだという。
イスラエル、エジプト両国は、ガザ地区を実効支配するハマスに武器が流入する懸念を理由として挙げている。
「輸出入ともすべて厳しく規制されており、住宅市場にも影響を与えている」。そう語るのは、ムルタガさんの家からも遠くない7階建てビルの建設を監督している、建設請負業者のアブ・イブラヒム・ラルマバイアド氏だ。
市外では、破壊された建物から回収した古い金属棒をまっすぐに延ばしたり、がれきから新たなレンガを作ったりしている光景も見られる。
だがサラジ市長によれば、建設資材や資金の確保といった面で課題があるにもかかわらず、ガザ地区では新規の高層住宅建設が昨年だけで約100件も開始されたという。
建築遺産
今年に入ってからの武力衝突により、ガザ地区の住宅事情はさらに打撃を受けた。パレスチナ側の死者は256人、2200戸以上の住宅が破壊された。
ガザ市当局では、戦闘中のイスラエル側の砲撃によって、これとは別に3万7000戸の住宅に被害が出ているとしており、人道支援機関は最新の復興費用を5億ドルと試算している。
イスラエル側でもロケット弾による攻撃で13人が死亡。生活は混乱し、人々はシェルターに避難した。
ムルタガさんは、リマル地区の土地を1平方メートル当たり約1690ドルで売却できるのではないかと期待している。
だが、手持ちの不動産を再開発用に売却するのは経済的に魅力が大きいものの、伝統的な1階建ての住宅を保有するガザ住民の中には、建築遺産を保全しようと決意する人もいる。
土木技師のファイサル・シャワさん(54)は、祖父が建てた住宅で今も暮らしている。木々と庭園に囲まれた郊外住宅だが、維持費用はかさむとシャワさんは言う。
5月には近所がイスラエル軍による空爆を受け、窓ガラスは割れ、壁にはひびが入った。イスラエル軍から警告の電話を受けた近所の人が事前に連絡をくれたため、家族は避難することができた。
シャワさんの家が建てられたのは、イスラエル建国に伴う1948年の第一次中東戦争より前だ。このとき、現在はイスラエル領となっている土地から70万人以上のパレスチナ人が排除され、その多くはガザ地区に避難した。
シャワさんは「ガザは宝物だ」と述べ、自宅の取り壊しなど絶対に考えないだろうと言葉を添えた。
「私たちの家は、パレスチナの歴史の証人であり続ける」とシャワさんは言う。
(Stefanie Glinski記者、翻訳:エァクレーレン)

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