過密に悩むパレスチナ自治区ガザ 歴史ある住宅も取り壊し高層化

パレスチナ自治区にある、面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっている。2020年5月撮影(2021年 ロイター/Mohammed Salem)
築60年以上、床の装飾タイルと木製のよろい戸が特徴の頑丈なガザの住宅が、アドナン・ムルタガさん(69)の生まれ育った家だ。だが、人口密度の高い飛び地であるガザでは住宅が不足しており、この家もまもなく高層住宅に建て替えられてしまう。
この物件はガザ市内でも人気の高いリマル地区にあり、海からは数分の距離だ。ムルタガさんは、父親の建てたこの家に愛着はあるものの、売却の決意を固めたと話す。
緑豊かな庭のベンチでコーヒーをすすりながら、ムルタガさんはトムソンロイター財団の取材に対し「もっと花を植えてこの家を美しく飾りたいという思いは変わらない。でも、そういうことはもう止めようとしている」と語った。
これまでにも、この区画を買収して集合住宅を建設したいという投資家からの打診は10数件もあったが、これまでは提示金額が低すぎたとムルタガさんは言う。
面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっていると当局者は語る。今年初めにイスラエルとパレスチナ人武装勢力のあいだで戦闘が11日間続き、住宅が破壊されたため、復興需要もあるという。
ガザ市のヤヒヤ・アル・サラジ市長は、旧市街の中心にあるオフィスで「世帯数は増え続けている。現在ガザ地区の人口は220万人で、年間3.2%のペースで増加している」と語った。このあたりには露天市場の屋台も集まり、交通渋滞も激しい。
保存対象に含まれず
ガザは世界で最も古い都市の1つで、その歴史は5000年前にさかのぼると推定されている。
今日でも、ガザ市を特徴付ける存在として約320カ所の歴史的建造物が残っている。100年以上前に建設されたものは保存の対象となっており、一部にはマムルーク朝やオスマン帝国にまでさかのぼるものもある。
法令による保存対象は100年以上を経た建造物だが、サラジ市長によれば、訴追を受ける恐れがあるにもかかわらず、そうした建造物が取り壊されてしまう例もあるという。
ムルタガさんの家のように保存対象外の建造物は、新しくもっと高層のものに建て替えるために取り壊されてしまう場合が多いと市長は言う。
「さら地に建設する場合もあるが、それ以外は古い建物を取り壊すことになる。そのほとんどは市の中心部に立地し、道路や電気、水道も通っているからだ」
家族が増えて元の家では手狭になった世帯が、持ち家を売却し、代わりに新たに建設された集合住宅を複数戸購入する例もある。失業率が約50%にも達する中で、自ら新築住宅を建てる、あるいは高額の家賃を払う余裕のある世帯はほとんどない。
こうした住み替えの取引は、開発事業者にとっても初期費用の削減になる。