最新記事

中東

過密に悩むパレスチナ自治区ガザ 歴史ある住宅も取り壊し高層化

2021年8月9日(月)15時19分
パレスチナ自治区のガザ地区

パレスチナ自治区にある、面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっている。2020年5月撮影(2021年 ロイター/Mohammed Salem)

築60年以上、床の装飾タイルと木製のよろい戸が特徴の頑丈なガザの住宅が、アドナン・ムルタガさん(69)の生まれ育った家だ。だが、人口密度の高い飛び地であるガザでは住宅が不足しており、この家もまもなく高層住宅に建て替えられてしまう。

この物件はガザ市内でも人気の高いリマル地区にあり、海からは数分の距離だ。ムルタガさんは、父親の建てたこの家に愛着はあるものの、売却の決意を固めたと話す。

緑豊かな庭のベンチでコーヒーをすすりながら、ムルタガさんはトムソンロイター財団の取材に対し「もっと花を植えてこの家を美しく飾りたいという思いは変わらない。でも、そういうことはもう止めようとしている」と語った。


これまでにも、この区画を買収して集合住宅を建設したいという投資家からの打診は10数件もあったが、これまでは提示金額が低すぎたとムルタガさんは言う。

面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっていると当局者は語る。今年初めにイスラエルとパレスチナ人武装勢力のあいだで戦闘が11日間続き、住宅が破壊されたため、復興需要もあるという。

ガザ市のヤヒヤ・アル・サラジ市長は、旧市街の中心にあるオフィスで「世帯数は増え続けている。現在ガザ地区の人口は220万人で、年間3.2%のペースで増加している」と語った。このあたりには露天市場の屋台も集まり、交通渋滞も激しい。

保存対象に含まれず

ガザは世界で最も古い都市の1つで、その歴史は5000年前にさかのぼると推定されている。

今日でも、ガザ市を特徴付ける存在として約320カ所の歴史的建造物が残っている。100年以上前に建設されたものは保存の対象となっており、一部にはマムルーク朝やオスマン帝国にまでさかのぼるものもある。

法令による保存対象は100年以上を経た建造物だが、サラジ市長によれば、訴追を受ける恐れがあるにもかかわらず、そうした建造物が取り壊されてしまう例もあるという。

ムルタガさんの家のように保存対象外の建造物は、新しくもっと高層のものに建て替えるために取り壊されてしまう場合が多いと市長は言う。

「さら地に建設する場合もあるが、それ以外は古い建物を取り壊すことになる。そのほとんどは市の中心部に立地し、道路や電気、水道も通っているからだ」

家族が増えて元の家では手狭になった世帯が、持ち家を売却し、代わりに新たに建設された集合住宅を複数戸購入する例もある。失業率が約50%にも達する中で、自ら新築住宅を建てる、あるいは高額の家賃を払う余裕のある世帯はほとんどない。

こうした住み替えの取引は、開発事業者にとっても初期費用の削減になる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン

ワールド

EU、米と関税巡り「友好的」な会談 多くの作業必要

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米中緊張緩和の兆候で 週
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 9
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中