経済学の常識を捨てよ...利己的な活動こそ経済発展させるとの考えは間違いだ
THE CHANGING MAP OF ECONOMICS
ETERNALCREATIVE/ISTOCK
<新型コロナウイルスの登場によって働き方から消費の在り方まで、経済学の常識を根本から見直すべき時代が到来した>
3年に1度開催される国際経済学協会世界大会は、世界の経済学者が集まる重要な場と位置付けられてきた。貧しい国と豊かな国の研究者や政策当局者が一堂に会する貴重な機会になっているからだ。この点では、コロナ禍により1年延期されて、オンラインでの会合になったものの、今年7月初めに行われた第19回大会も例外でなかった。
今年の大会で繰り返し議論されたことの1つは、いま資本主義と世界経済が岐路に立たされているという点だった。
新型コロナウイルス感染症に対処する経験を通じて、私たちは多くのことを学びつつある。私たちは、ビデオ会議システムを利用して講義や会議を行ったり、オンラインショッピングで自宅に居ながらにして買い物をしたりするようになった。これまで必要以上に多くの時間をオフィスで過ごしていたことに気付き、もっとリモート勤務を増やせることも学んだ。
一方、高い賃金を受け取って働く人と低賃金で働かざるを得ない人の間の格差は、ますます拡大する可能性が高い。グローバル化の進展により、世界規模での人材争奪戦が活発化すると予想できるからだ。
今後、グローバル化がいっそう加速し、国境を越えたアウトソーシングが盛んになるだろう。それに伴い、労働市場の在り方、各国の政治状況、国際紛争の性格も大きな影響を受ける可能性が高い。
環境にやさしい活動でもGDPは増える
このような新しい世界を理解するためには、経済学の常識を大きく転換する必要がある。これから経済学界でどのような新しい知見が生まれて、その知見を生かすために政府がどのような規制を設けるべきかは、まだ見えてきていない。
それでも、人類が環境に及ぼす負荷の大きさを考えると、これまでのような経済成長を続けることが不可能であることは明らかだ。とはいえ、低成長時代の到来が避けられないわけではない。むしろ経済成長は加速すると、私は考えている。
成長の減速を予測する論者は、GDPについて誤解している。GDPを増やすためには、環境にダメージを及ぼすような消費を増やすことが避けられないと思い込んでいるのだ。このように考える人は多いが、実際にはそうとは限らない。
アートや音楽や教育を楽しんだり、人々の健康状態を改善したり、寿命を延ばしたりするための活動も全て、GDPを押し上げる要素になる。この種の活動は、環境に害を及ぼさずに行うこともできる。
政府の規制を改めれば、GDPの成長ペースを加速させることは可能だ。その際は、GDPの中身を大きく転換させて、労働力のかなりの割合を創造的な活動に費やすようにする必要がある。