アメリカとタリバンの「反IS共闘」に現実味
8月26日の自爆テロもアメリカとタリバンを接近させる一因になる? AP/AFLO
<過去にもアメリカは「イスラム国」と対抗するために敵対勢力と連携してきた。脱出作戦が困難を極めるなか、アメリカとタリバンが手を結ぶシナリオが浮上?>
ちょうど米副大統領のカマラ・ハリスがベトナムを訪ねているときに、アフガニスタンで混乱と流血と絶望の脱出劇が繰り広げられたことは、46年前の出来事をいやでも思い出させた。今回の米軍のアフガニスタン撤退と、約半世紀前に起きたベトナム戦争時のサイゴン陥落を重ね合わせたアメリカ人は多い。
一方、現在のアフガニスタン情勢に関して見落とせないのは、アメリカと、アフガニスタンを掌握したイスラム主義勢力タリバンの関係性が変容しつつあることだ。
8月26日にアフガニスタンの首都カブールの国際空港近くで起きた自爆テロにより、米兵13人を含め170人以上が死亡した後、バイデン大統領はこう言い切った。「私たちは決して許さない。決して忘れない。必ず追い詰め、代償を払わせる」
しかし、バイデンが決して言わなかったことがある。タリバンを非難する言葉は一切口にしなかったのだ。むしろ、テロを実行した過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」を「タリバンの宿敵」と名指しした。
脱出作戦を進めるためにタリバンの協力が必要という面もあっただろうが、それだけではない。IS-Kの脅威は、脱出作戦終了後も続く。しかもタリバンが賢ければ、IS-Kの脅威を強調することにより、アメリカや同盟国のタリバン政権への態度を軟化させようとするに違いない。
実際、8月26日のテロでIS-Kが殺害したアメリカ人は、2019年以降にタリバンが殺害したアメリカ人よりも多い。少なくとも最近のタリバンは、米軍の撤退を加速させるために、米軍への攻撃を避けていた。IS-Kにそのような発想はない。
それに、タリバンもIS-Kの根絶を最優先課題と位置付けているようだ。カブールを制圧すると早々に、刑務所に収容されていたIS-Kの元リーダーを処刑している。
これまでアメリカは、ISと対抗するためにしばしば敵対勢力とも連携してきた。イラクとシリアでは、シリア反政府勢力(2001年の9.11テロを実行した国際テロ組織アルカイダと極めて近いグループもあった)や、クルド人武装勢力(米政府がテロ組織に指定しているグループと連携していた)とも手を結んだ。
アフガニスタンでも既に、以前は想像もできなかったことが起きつつある。例えば、CIAのバーンズ長官がカブールを訪れて、タリバンの事実上のリーダーと会談していたことが明らかになっている。