最新記事

生物

5億年前から地球に生息するスライム状の「モジホコリ」がISSへ送り込まれる

2021年8月16日(月)20時00分
松岡由希子

多核単細胞生物で粘菌の一種の「モジホコリ」が宇宙に打ち上げられた Audrey Dussutour/CNRS

<多核単細胞生物で粘菌の一種の「モジホコリ」が、国際宇宙ステーションに打ち上げられた......>

フランスで「ブロブ」と名付けられたアメーボゾア(アメーバ動物)に属する多核単細胞生物で粘菌の一種の「モジホコリ」が、他の実験機器や物資、機材などとともにシグナスの無人宇宙補給機に積み込まれ、2021年8月10日、米ヴァージニア州ワロップス飛行施設から国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられた

720種類以上もの性別があり、脳がなくても学習する

黄色いスライム状のモジホコリが地球に初めて現れたのは約5億年前とみられる。口、脳、脚を持たないが、捕食したり、原形質流動でゆっくりと移動でき、優れた学習能力や記憶力、判断力を備えるユニークな生物だ。

生命体の多くは細胞の分裂と増殖によって成長し、繁殖するが、モジホコリは分裂することなく成長する単細胞生物であり、720種類以上もの性別がある。また、乾燥すると「菌核」と呼ばれる休眠体になる。

では、モジホコリは、無重力空間でどのような影響を受けるのだろうか。フランス国立宇宙研究センター(CNES)は、この謎を解明するべく、フランス国立科学研究センター(CNRS)との提携のもと、欧州宇宙機関(ESA)のミッションの一環として「ブロブ」を国際宇宙ステーションに送り込み、実験を行うことにした。

Blob_article.jpegAudrey Dussutour/CNRS

同じ株のサンプルをフランス国内の約4500校に配布

国際宇宙ステーションには、「ブロブ」の同じ株から採取された4つのサンプルが休眠状態で到着。9月にフランス人宇宙飛行士トマ・ペスケ氏がペトリ皿で水分を与えてこれらのサンプルを覚醒させたうえで、食料を一切与えないグループとオートミール粥を与えるグループに分け、無重力空間でそれぞれの行動を観察する。

この実験は、フランスの小中高校で学ぶ10〜18歳の35万人以上の子供たちと一緒に実施される。国際宇宙ステーションに送り込まれたサンプルと同じ株から採取された休眠体のサンプルをフランス国内の約4500校に配布。子供たちは国際宇宙ステーションに滞在するペスケ氏とともに同一の実験を行い、地上と無重力空間での「ブロブ」の行動を比較する予定だ。

フランス国立宇宙研究センターのイブリン・クリティアド=マルシュ氏は「この実験は、環境が生命体に与える影響といったテーマについて子供たちの好奇心を刺激する貴重な体験となるだろう」と期待感を示している。


Science Launching on Northrop Grumman CRS-16 Mission to the Space Station

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米との鉱物資源協定、週内署名は「絶対ない」=ウクラ

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中