最新記事

東京五輪

五輪の開幕前に悲観的ムードが漂うのは「いつものこと」

2021年7月26日(月)18時10分
ジョシュア・キーティング
東京五輪の開会式で聖火台に向かう大坂なおみ

聖火リレーの最終ランナーとして聖火台に向かうテニスの大坂なおみ BAI YUーCHINASPORTSーVCG/GETTY IMAGES

<アテネ、北京、ロンドン、ソチ、リオデジャネイロ......。東京五輪が過去の大会から学べることは何か>

ついに開幕した東京五輪だが、開会式直前のムードは最悪に近かった。

まず第1に、2020年から2021年に延期される原因となった新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)。日本のまずい対応とデルタ株の世界的な感染拡大のせいで、大会は無観客開催に。検査で陽性反応が出た代表選手の参加辞退が相次ぎ、日本国内では開催反対の世論が多数を占めた。

差別的ルールやばかげた規定のせいで参加できない選手も出た。性差別、女性の体形侮辱、盗作疑惑、障がい者へのいじめ、ホロコーストのネタ化騒動など、あきれるような言動が発覚して辞任・解任された大会関係者もいた。

蒸し暑い夏の東京での屋外競技の開催に対し、安全性を懸念する声も上がった。

メディアの報道から判断すると、東京五輪は最悪の場合、公衆衛生上の大惨事を招き、最善のシナリオでも盛り上がりに欠ける退屈なイベントに終わるように思われる。

そうならない保証はないが、五輪の開幕前に悲観的ムードが漂うのは普通のことだ。

2004年のアテネ大会では、開幕6週間前にニューヨーク・タイムズ紙が「主要施設はまだ工事中」と報じ、テロ攻撃が懸念された。

2008年の北京大会では、人権問題への抗議、建設作業員の死亡事故、大気汚染が大きく取り上げられた。

2012年のロンドン大会は工事の遅れ、安全上の不安、世論の反対を乗り越えて開催された。

2014年のソチ冬季五輪では、世界のメディアが汚職やLGBTへの差別を批判。未完成のホテルやゴミだらけの道、野良犬の写真が悪い意味で注目を浴びた。

2016年のリオデジャネイロ五輪は工事の遅れ、汚染水、犯罪と治安、ドーピング、人権侵害、ジカウイルスなど、問題が山積みだった。

だが、いざ競技が開始されると、悪評は瞬く間に雲散霧消した。

確かに新型コロナ級の世界的な試練に直面するのは、五輪にとって初めての経験だ。だが、選手・関係者と一般社会を隔離するバブル方式を採用した米プロバスケットボールのNBAやサッカーのヨーロッパ選手権も、当初は無謀な大失敗に見えた。どちらも完璧だったとは言えないが、エンターテインメントとして視聴者が求めるものを提供することはできた。

ここから導き出せる結論はいくつかある。

1つは、大規模で複雑な世界的イベントには、遅延やコスト超過、政治的問題が付きものということ。五輪開幕までの数カ月間は、肝心の競技がまだ実施されていないため、メディアはこうした問題や開催国の長年の悪弊を取り上げる傾向がある。だが競技が始まれば、関心はそちらに移る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然

ビジネス

米連邦地裁、マスク氏の棄却請求退ける ツイッター株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中