最新記事

オーストラリア

経済依存してきた中国に、真っ向から歯向かうオーストラリアの勝算は?

A TEST CASE

2021年7月16日(金)19時26分
キース・ジョンソン、ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
オーストラリア海軍

オーストラリアは国防費を大幅に増やしている ERNESTO SNACHEZーROYAL AUSTRALIAN NAVY

<資源大国オーストラリアにとって、最大の貿易相手国である中国への強硬姿勢には当然ながら不安もある>

最近、オーストラリア政府関係者の中国に対する強気発言が目立っている。アダム・フィンドレー少将(現在は退任)は昨年、中国との外交面での対立が戦争に発展する「可能性は高い」と、特殊部隊の兵士たちに警告した。

ピーター・ダットン国防相は今年4月、「台湾をめぐる(中国との)対立」は地域紛争につながる恐れがあるとの見解を示し、周囲を驚かせた。スコット・モリソン首相が昨年、国防費を大幅に増額する防衛戦略を発表したのも、中国との対立を意識したものとみられている。

これは従来の姿勢からの大きな転換だ。オーストラリアは長年、安全保障の傘を与えてくれるアメリカに足並みをそろえつつ、最大の貿易相手国である中国との関係を良好に維持するべく努力してきた。

それが今、明らかに中国政府のご機嫌を損ねる言動を取っている。それに対して中国は、オーストラリア産の原材料などに懲罰的な関税をかけて反撃に出ている。

中国経済に大きく依存する世界の国々にとってオーストラリアは、中国の拡張的な領有権主張や、巨大な経済力を武器にしたゴリ押し政治を厳しく批判するとどういうことになるかを示す、テストケースになりつつある。

対中観が大きく変わるきっかけはテレビ番組

オーストラリアは「炭鉱のカナリアのようなものだ」と、ハイノ・クリンク元米国防副次官補(東アジア担当)は語る。「中国は全力で、オーストラリア経済を窒息させようとしている」

なにしろ中国は、毎年、オーストラリアの原材料輸出の3分の1以上を買い上げる超お得意様だ。それなのに公然と「反抗」してきたオーストラリアに対して、中国は、他のアジア諸国(日本などアメリカの同盟国を含む)に対するのとは全く違うレベルの反撃をしてきた。

中国の外交官による「戦狼外交」も盛んだ。昨年11月には、オーストラリア軍兵士がアフガニスタンの子供の喉元にナイフを突き付けているように見えるフェイク画像を、中国外務省の報道官がツイートして、世界を仰天させた。

そもそもオーストラリアの対中観が大きく変わり始めたのは、2017年のテレビ番組がきっかけだった。中国系の人物が複数の政治家に賄賂や巨額の政治献金を渡すことで、オーストラリア政治を中国に有利に操ろうとしていることを暴く調査報道だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サムスン、第1四半期のAI半導体低迷を警告 米の対

ワールド

ガザ検問所に米退役軍人配置へ、イスラエル・アラブ諸

ワールド

米レーガン空港、ヘリとのニアミス事案頻発 80年代

ビジネス

コマツ、今吉専務が社長就任へ 小川社長は会長に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中