習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結──欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議
EUが中国に科した制裁が新疆ウイグル自治区に限定され、おまけに人権弾圧の総指揮者である自治区書記の陳全国を除外するという軽微なものだったのに対し、中国の対EU報復制裁は、広範囲の個人にわたっているだけでなく、何といっても4つの機構を制裁対象としたということが大きい。
特にラインハルト・ビュティコファー「対中関係代表団」議長を制裁対象に入れたことは、欧州議会に大きな反発を招き、中国にとっては手痛い「しっぺ返し」となって跳ね返ってくる結果を招いた。
中国の報復制裁に対してEUが中欧投資協定(合意)を凍結
昨年末、習近平が2013年から7年間もかけて推進してきた「中欧投資協定」が大筋合意に達していたのだが、5月20日に欧州議会が凍結を決議したのだ。
実はなかなか合意に至らなかったのは、欧州議会で対中関係代表団の団長を務めるラインハルト・ビュティコファーとドイツのメルカトル中国問題研究所が中欧投資協定に強く反対していたからである。
それでもドイツがEU議長国で、トランプ政権を嫌っているメルケルが首相である間に(そしてトランプ政権である間に)、何としても合意に導きたかった習近平は、EU企業の中国への参入制限を緩和するなどの譲歩を見せて、2020年12月30日に「(包括的)中欧投資協定」の「滑り込み合意」に漕ぎ着けたのだった。
それまで中国は中欧投資協定に反対する「対中関係代表団」や「メルカトル中国問題研究所」の代表を、中欧指導者会議に参加させないという方向で動いてきたという経緯さえある。
そこを何とか躱(かわ)して、ようやく大筋合意に漕ぎ着けていたというのに、報復制裁の対象に、この二つの組織の代表をも入れたということが、欧州議会の逆鱗に触れた。
だから欧州議会は5月20日に、「包括的中欧投資協定合意の凍結」を議決したのである。
欧州議会の第2会派である中道左派の社会民主進歩同盟は、「中国の対EU報復制裁の解除」が、中欧投資協定の審議入りの前提条件だとしている。
さあ、習近平、どうする?
まさか振り上げた刀を下すわけにもいかないだろうし、かと言って制裁解除をしなければEU市場を失う。
習近平としては、アメリカがだめならヨーロッパを中国に引き寄せておけば、中国は安泰だという計算があったにちがいない。