最新記事

東京五輪

日本の状況を客観的に見れば、コロナによる五輪「中止」はあり得ない

THE TOKYO GAMES WILL GO ON

2021年7月14日(水)18時05分
ビル・エモット(ジャーナリスト、英エコノミスト誌元東京支局長)
東京五輪マスコット

日本の「コロナ危機」で東京五輪中止はあり得ない JAMES MATSUMOTOーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<もし五輪の開催地がアメリカや中国の都市で、コロナ感染状況が現在の日本くらいなら、中止することなど考えられない>

7月23日の開会式が目前に近づいた今も、東京五輪を取り巻くムードは悲観的なままだ。新型コロナウイルス感染症の流行を理由に、国内外で五輪の開催中止を予測もしくは要求する声が尽きない。大会のオフィシャルパートナーの1つである朝日新聞まで、開催中止を求める社説を掲載した。

世論調査によれば、(調査結果の読み解き方にもよるが)日本人の60~80%はこうした主張を支持していると言えそうだ。医療関係団体も、五輪開催が日本の医療システムに耐え難い負荷を課すと警鐘を鳴らしている。実際、日本政府は7月8日、東京に4度目の緊急事態宣言を発令することを決めた。

しかし、日本の状況は、新型コロナの感染拡大が深刻なインドやブラジルとはまるで違う。人口1億2500万人の国で、7月7日の新規感染者数は2191人、死者は14人にすぎなかった。

日本の新型コロナウイルス感染症による累計死者数は1万5000人足らず。これは、イタリア(人口は日本の約半分)の約10分の1、アメリカ(人口は日本の2.5倍余り)の約40分の1にとどまる。

日本の状況は「緊急事態」ではない

だからといって、何があっても五輪開幕に突き進むべきだなどと言うつもりはない。世界の国々から約7万人のアスリートと関係者を迎えれば、ある程度の感染拡大リスクが伴うことは事実だ。同様のリスクはほかのスポーツ大会(日本でもプロ野球の試合が行われている)にも付いて回るが、中止論者は五輪というイベントの大会規模の大きさに懸念を抱いているのだろう。

しかし、日本の状況は、「緊急事態宣言」という言葉のイメージほど深刻ではない。緊急事態宣言の下でも、飲食店の深夜営業と酒類提供の中止が求められる以外は、市民に対して極力慎重に行動するよう呼び掛けられる程度だ。コロナ禍における日本人の生活は、ヨーロッパなどに比べるとかなり平時に近いのだ。

医療逼迫に関する懸念も大げさだ。日本の人口当たりの病床数は、大多数の国よりも多い。確かに、コロナ病床が不足したケースはあったが、新型コロナ感染者数や重症者数、死者数がもっと多ければ、もっとたくさんの病床が用意されていただろう。

もちろん、日本の医療システムには弱点もある。民間病院が多いため、政府がコロナ病床の増床を強制することができない。その結果、病床不足によりコロナ患者が入院治療を受けられず、自宅で死亡するという痛ましい出来事も起きている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中