日本の状況を客観的に見れば、コロナによる五輪「中止」はあり得ない
THE TOKYO GAMES WILL GO ON
日本の「コロナ危機」で東京五輪中止はあり得ない JAMES MATSUMOTOーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES
<もし五輪の開催地がアメリカや中国の都市で、コロナ感染状況が現在の日本くらいなら、中止することなど考えられない>
7月23日の開会式が目前に近づいた今も、東京五輪を取り巻くムードは悲観的なままだ。新型コロナウイルス感染症の流行を理由に、国内外で五輪の開催中止を予測もしくは要求する声が尽きない。大会のオフィシャルパートナーの1つである朝日新聞まで、開催中止を求める社説を掲載した。
世論調査によれば、(調査結果の読み解き方にもよるが)日本人の60~80%はこうした主張を支持していると言えそうだ。医療関係団体も、五輪開催が日本の医療システムに耐え難い負荷を課すと警鐘を鳴らしている。実際、日本政府は7月8日、東京に4度目の緊急事態宣言を発令することを決めた。
しかし、日本の状況は、新型コロナの感染拡大が深刻なインドやブラジルとはまるで違う。人口1億2500万人の国で、7月7日の新規感染者数は2191人、死者は14人にすぎなかった。
日本の新型コロナウイルス感染症による累計死者数は1万5000人足らず。これは、イタリア(人口は日本の約半分)の約10分の1、アメリカ(人口は日本の2.5倍余り)の約40分の1にとどまる。
日本の状況は「緊急事態」ではない
だからといって、何があっても五輪開幕に突き進むべきだなどと言うつもりはない。世界の国々から約7万人のアスリートと関係者を迎えれば、ある程度の感染拡大リスクが伴うことは事実だ。同様のリスクはほかのスポーツ大会(日本でもプロ野球の試合が行われている)にも付いて回るが、中止論者は五輪というイベントの大会規模の大きさに懸念を抱いているのだろう。
しかし、日本の状況は、「緊急事態宣言」という言葉のイメージほど深刻ではない。緊急事態宣言の下でも、飲食店の深夜営業と酒類提供の中止が求められる以外は、市民に対して極力慎重に行動するよう呼び掛けられる程度だ。コロナ禍における日本人の生活は、ヨーロッパなどに比べるとかなり平時に近いのだ。
医療逼迫に関する懸念も大げさだ。日本の人口当たりの病床数は、大多数の国よりも多い。確かに、コロナ病床が不足したケースはあったが、新型コロナ感染者数や重症者数、死者数がもっと多ければ、もっとたくさんの病床が用意されていただろう。
もちろん、日本の医療システムには弱点もある。民間病院が多いため、政府がコロナ病床の増床を強制することができない。その結果、病床不足によりコロナ患者が入院治療を受けられず、自宅で死亡するという痛ましい出来事も起きている。