医療崩壊寸前のインドネシアに残された在留邦人の不安はピークに
インドネシア政府は当初、出国する外国人に対して「コロナ陰性証明」と同時に「ワクチン接種証明書」の提示を義務付けたが、日本をはじめとする各国大使館の申し入れで即刻この規則は撤回された。
さらに出国する国際空港があるジャカルタなどに他地域から向かう外国人に対しても「ワクチン接種証明」の携帯、提示が求められたが、これも「ワクチン接種を本国で受けるために空港へ向かうのにワクチン接種照明を義務付けることは整合性に欠ける」との声を受けて撤回されている。
こうした思いつきとも思える在留外国人へのインドネシア政府の「朝令暮改」に振り回されているのが日本などの各国大使館という現状があり、日本大使館が在留日本人を対象にして発出している通知にも「インドネシア政府の感染防止対策などは急に変更される可能性がある」と注意する事態が続いている。
日本大使館関係者は「危機的状況にある」として、一日の感染者が1万4000人以上を記録(7月12日)している首都ジャカルタの状況に強い危機感を募らせているという。
ロックダウンには依然消極的
タイ政府は7月12日から首都バンコクなどに実質的な「ロックダウン(都市封鎖)」を発令して感染拡大防止策に乗り出した。この「ロックダウン」には午後9時から翌日の午前4時までの外出禁止令が含まれており、思い切った判断といえる。
これに対しインドネシア政府、首都ジャカルタの州政府などは「経済活動への影響が深刻になる」との理由で強い「活動制限」に踏み切れない状態が続き、それが感染拡大を防げない一因になっている、との批判も出ている。
3日に「緊急公衆活動制限(PPKM Darurat)」を施行して、主要な基盤分野の産業を除いてリモートワーク率を100%として、学校教育はすべてオンライン化。宗教施設やショッピングモール、飲食店の閉鎖(飲食店はテイクアウトのみ可)、主要道路への一般車両・バイクの乗り入れ規制、国内移動に際して(インドネシア人対象)ワクチン接種済みの証明書携帯などを義務付けている。
それでも目に見える効果はなく、感染者・死者は減少するには至っていない。
ジョコウィ内閣の閣僚からは「政府のコロナ対策を信用するように」「感染者にはワクチン未接種者が多い」「必要とされる医療用酸素、感染者用病床は確保の見通しが立っている」などの声が出され、ジョコウィ大統領によるワクチン接種現場の視察の様子と共に地元メディアを賑わせている。
しかしそうした中に緊急事態への具体策はあまり見えず、インドネシア人の間からも政府不信の声が出始めているという。
大使館対応に在留日本人の間から動きも
ジャカルタ在住の日本人によると、危機的状況にある現況に何らかの対応策を日本大使館に尋ねたところ「重症者は海外旅行保険に入っていると思われるので、それを使って飛行機で帰国し、日本で治療して下さい」と言われたという。
さらに在留日本人の間では一時帰国、本帰国を含めて「日本への出国を希望しながら、航空券確保が困難な状況にある」という在留日本人の数を調査して、「こうした在留日本人に対してどういう対応が可能なのか」と対応を尋ねようとする動きがでて、現在具体的な希望者調査をしようという機運が盛り上がっているという。
在外公館としてできることに限界があることは在留日本人の間でも理解があるものの、このインドネシアの危機的状況の中で、特別な方法、手段、対応策があるのか、ないのか、そして可能なのか、不可能なのか、大使館側と在留日本人側の双方の苦悩は今日も出口が見えない中で続いている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など