最新記事

考古学

2万5000年前の堆積物からヒトの環境ゲノムが抽出される

2021年7月20日(火)18時29分
松岡由希子

ジョージアのサツルブリア洞窟での発掘の様子 (C)Anna Belfer-Cohen

<サツルブリア洞窟の約2万5000年前の土のサンプルから、ヒトを含む3種の哺乳類の環境ゲノムを抽出することに成功した>

黒海沿岸の国ジョージアの西部、サツルブリア洞窟では、旧石器時代、人類が居住していたと考えられている。これまでに1万5000年前のヒトのゲノムがこの洞窟で確認されているが、それ以前の堆積物からは見つかっていない。

環境DNA(eDNA)とは、土壌などの環境から採取されるDNAである。骨片や糞便などに沈着して堆積物の中に残され、古生物学など、様々な研究分野で用いられている。

ヒトを含む3種の哺乳類の環境ゲノムを抽出することに成功

オーストリア・ウィーン大学と英フランシス・クリック研究所(FCI)の研究チームは、サツルブリア洞窟の約2万5000年前の土のサンプルから、ヒトを含む3種の哺乳類の環境ゲノムを抽出することに成功し、これを分析した。

2021年7月12日に学術雑誌「カレントバイオロジー」で掲載された研究論文によると、ヒトの環境ゲノムは、ユーラシア人の祖先にあたり、現代の西ユーラシア人につながる絶滅した系統であった。この環境ゲノムをサツルブリア洞窟近くのズズアナ洞窟で発掘された人骨から得た遺伝子配列と比較したところ、遺伝的類似性が認められた。

この研究では、ヒトのほか、オオカミとバイソンの環境ゲノムも抽出された。オオカミは、これまで知られていなかった、おそらく絶滅したコーカサスの系統とみられる。また、バイソンの環境ゲノムは、現存するアメリカバイソンよりもヨーロッパバイソンと近縁であった。つまり、これら2系統は、サツルブリア洞窟にバイソンが生息していた2万5000年前よりも前に分岐していたことになる。

骨が残されていなくても、ヒトの環境ゲノムを抽出できる

一連の研究成果は、ヒト、オオカミ、バイソンの後期更新世の遺伝的歴史に新たな洞察をもたらすものだ。また、遺骨が残されていなくても、ヒトの環境ゲノムを抽出できる可能性があることも示している。

研究チームでは、絶滅した動物相と人類との相互作用や気候変動が哺乳類集団にもたらす影響を解明するべく、サツルブリア洞窟で採取した土のサンプルの分析をさらにすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、カーニー氏と電話会談 カナダ総選挙後に

ビジネス

米2月PCE価格+2.5%、予想と一致 消費が回復

ワールド

仏大統領、イスラエルのヒズボラ攻撃「正当化できず」

ワールド

ロシア「エネ施設攻撃停止から撤退も」、ウクライナ違
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中