最新記事

アメリカ社会

ファストフード店の近くに住んでも大丈夫...米研究、体重増の通説を否定

2021年6月23日(水)16時45分
青葉やまと

ファストフードを買いやすい環境に住むと、自然と体重は増えてしまう? mustafagull-iStock

<11万人の医療記録を精査した研究により、ファストフード店やスーパーの近くに住んでいても、体重への影響はほぼないことが判明した>

ファストフードを買いやすい環境に住むと、自然と体重は増えてしまうのだろうか? 直感的には、そのような因果関係があるようにも思える。例えばハンバーガーショップや牛丼屋などが近くにあれば気軽に利用してしまい、次第に体重は増えそうなものだ。

逆もまた然りで、スーパーの近隣に住むと、理想的な体重を維持しやすいとする説がある。新鮮な食料品がすぐに手に入り、自炊の敷居が一段下がるためだ。スーパーまでの距離が遠く出前に頼りがちな場所に住むよりは、より積極的に料理をする動機付けが働くことだろう。

このような考え方は必ずしも空論というわけではなく、きちんとした学術的なコンセプトにもなっている。都市計画の分野には「建造環境(built environments)」という用語があるが、これは人工的な環境が人間の日々の生活に影響を与えるという考えに則ったものだ。

ファストフードの例では、不健康な食品を入手しやすいという建造環境的要因が食生活に影響を与え、平均的には周辺の人々の体重を増加させる作用が想定される。ところが、アメリカで発表された最新の研究により、人々が住む街の環境と体重増加にはほぼ関連がないことが判明した。

ビッグデータの分析で判明

研究は米ワシントン大学などが実施したもので、肥満を専門とする学術誌『インターナショナル・ジャーナル・オブ・オベシティ』上でこのほど結果が発表された。研究チームを主導したのは、公衆医療栄養学センターに勤めるジェームズ・バスキウィックス博士だ。

バスキウィックス博士たちは、体重と住所を記録している過去の医療データが役に立つと考えた。そこで、ワシントン州の保険機関であるカイザー・パーマネンテが所有するビッグ・データから、匿名化処理を施したうえで、18歳から64歳までの被保険者・約11万5000人分の電子カルテを得た。

分析にあたり博士たちは、地区ごとの店舗密度に注目している。街を1600メートル四方、および5000メートル四方のブロックに分けてファストフード店の密度を調べ、各人が住むエリアの店舗密度と肥満指数(BMI指数)の変動のあいだにどのような関係があるかを分析した。店舗密度が高いほど、平均的に各個人宅からファストフード店までの距離が短く、より気軽にアクセスできると考えられる。

結果、ファストフード店舗の密度はBMI指数の経年変化にほとんど影響していないことが判明したという。基準となる年から1年後、3年後、5年後の3つのパターンで体重の変動を分析したが、いずれのパターンでも店舗密度とBMIの変化に有意な相関は見られなかった。

本研究はファストフード店の多い地域に住む人々の不安を取り除くとともに、都市計画における教訓ともなりそうだ。バスキウィックス博士はワシントン大学が発表したリリースのなかで、「結論として私たちの研究は、肥満の流行を抑制したい場合、運動場やスーパーマーケットを設けるなど、建造環境の面から安易に解決することはできないということを示しています」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中