最新記事

仮想通貨

ビットコインを法定通貨に採用した国...仮想通貨が国家経済と財政を救う?

Bitcoin Fantasyland

2021年6月23日(水)18時26分
デービッド・ジェラード(経済ジャーナリスト)
ビットコイン(イメージ画像)

ILLUSTRATION BY ANDRIY ONUFRIYENKO/GETTY IMAGES

<米ドルを正式通貨とする中米エルサルバドルが、ビットコインを法定通貨に加えたい本当の理由>

中米エルサルバドルの大統領ナジブ・ブケレは若くて(この7月24日で40歳)大胆、そして予測不能だ。去る6月5日にはマイアミ(米フロリダ州)で開かれたビットコインの会議にビデオ出演し、重大な政策変更を発表した。暗号資産(仮想通貨)ビットコインを法定通貨に採用し、米ドルと共存させると発言したのだ(経済の混乱で旧通貨の信頼が失われたため、この国では2001年以降、米ドルが正式な通貨として用いられている)。

とんでもない話だが、これがブケレ流の統治スタイルであり、ビットコイン流の夢物語でもある。つまりエルサルバドル国民の暮らしなど考えもせず、ただビットコインのイメージアップに資するだけのプロジェクトだ。

ビットコインは仮想通貨の元祖で、本来は政府の干渉を受けない通貨として構想されたもの。しかし有益な通貨とはなり得ず、せいぜいサイバー攻撃を受けた企業の身代金支払いに使われる程度。だから今は、もっぱら「価値ある資産」と喧伝されているが、その実態は2、3カ月で価値が50%も乱高下するような投機的商品だ。

納税を含む全ての支払いで使えるように

エルサルバドルのビットコイン法案は現地時間の6月8日午後8時に上程され、日付をまたいで深夜0時過ぎに賛成62、反対19、棄権3で可決された。上程前に法案の内容を知っていたのはブケレ大統領と一部の側近のみだろう。議会での審議も形だけ、わずか数時間だった。

このままだと法案成立から90日後の9月7日を期して、エルサルバドルでは納税を含む全ての支払いにビットコインを使えることになる。どんなに小さな商店主も、代金としてビットコインを受け取らねばならない(技術的に不可能な場合は除くとされているが、現実にビットコインが店頭での支払いに利用される可能性は限りなく低い)。だが米ドルも法定通貨であり続けるから、米ドル建ての銀行口座はなくならない。つまり、所詮ビットコインは米ドルの「代用品」だ。

エルサルバドル国民の4人に1人はアメリカで働いており、その稼ぎを本国の家族に仕送りしている。19年の送金額はエルサルバドルの輸出額に匹敵する56億ドルだった。政府と、そして政府と組むビットコイン運用会社が欲しいのは、この米ドルだ。

政府と組んでいるのはアメリカの電子決済企業ザップの子会社ストライク。この会社を率いるジャック・マラーズが今年初めに行った説明によると、同社はアメリカ在住の送金者から受け取った米ドルでビットコインを購入し、それをエルサルバドルに送金した後、さらに「テザー」と呼ばれる別の仮想通貨と交換する。テザーは「米ドルの価値に1対1で連動している」とされるドル代替仮想通貨だが、本当に1対1で交換できると信ずるに足る証拠はどこにもない。

つまり、仕送りを受け取る側がストライクのアプリを通じて手に入れるのは怪しげな「暗号ドル」にすぎず、今までのような本物の米ドル紙幣ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中