最新記事

日本外交

台湾・ベトナムから始まる日本版ワクチン外交の勝算

2021年6月21日(月)18時50分
セバスチャン・ストランジオ
台湾向けのコロナワクチンを輸送機に積み込む

台湾向けのコロナワクチンを輸送機に積み込む(成田空港、6月4日) TAIWAN ECONOMIC AND CULTURAL REPRESENTATIVE OFFICE IN JAPAN-HANDOUT-REUTERS

<ワクチン不足にあえぐASEAN諸国への援助を決めた日本政府がCOVAXなどの国際機関の枠組みを経由しなかったのは、手続きに時間がかかるから──だけではない>

ベトナムの首都ハノイに6月16日夜、約100万回分のアストラゼネカ社製新型コロナワクチンが到着した。ワクチン不足に悩むベトナムに対する日本政府の贈り物だ。茂木敏充外相はその前日の会見で、他のASEAN諸国にも7月からワクチンの無償提供を開始すると発表した。

「(ASEAN諸国の)感染状況やワクチン不足、日本との関係等々を総合的に勘案して」決定したと、茂木は記者団に語った。また、今回の無償提供はWHO(世界保健機関)のCOVAXなどの国際機関の枠組みを経由せず、直接の2国間援助という形で行われると述べ、その理由として国際機関を通すと「承認取得等の手続きに若干時間がかかる」ためだと説明した。

ベトナムは2020年に新型コロナの封じ込めに成功して国際的に高く評価されたが、今年4月以降感染が拡大している。6月19日の時点で感染者数1万2508人、死者は62人。ベトナム保健当局はインドとイギリスでそれぞれ確認された変異株(デルタ株、アルファ株)の特徴が組み合わさったハイブリッド株を検出したと報告している。

日本からベトナムへのワクチン提供は6月初め、感染が急拡大した台湾に送ったアストラゼネカ製ワクチン124万回分に続くもの。茂木はインドネシア、タイ、フィリピン、マレーシアにも7月から同様の無償提供を検討していると述べた(ワクチンの量などの詳細は明かさなかった)。

日本はアストラゼネカ製ワクチンを1億2000万回分確保しており、そのうち9000万回分は国内で生産されることになっている。ただし、日本の厚生労働省は副反応への懸念から、国内での接種を保留している。

今回の日本の無償提供を、中国の「ワクチン外交」と切り離して考えることは難しい。中国政府はパンデミック(世界的大流行)の発生当初から、新型コロナの抑え込みとパンデミックからの経済回復を目指すASEAN諸国の重要なパートナーとして自国を売り込んできた。

中国はASEANの全ての国に、大量の自国製ワクチンを有償または無償で提供している。現在、ASEAN諸国で国民の半数以上にワクチンが接種できる見込みなのはシンガポールだけだ。もともと中国への警戒心が強いベトナムも、感染拡大を受けて中国医薬集団(シノファーム)製ワクチンを承認した。

日本がCOVAXの枠組みを通さないワクチン提供を選択した本当の理由は、おそらく戦略的な利点が最も大きい国や地域にワクチンを送りたいからだろう。WHOに加盟していない台湾にワクチンを提供できる点はさらに重要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シリア経済、外国投資に開放へ 湾岸諸国と多分野で提

ビジネス

米国株式市場=続伸、S&P日中最高値更新 AI投資

ワールド

ヨルダン川西岸の大規模作戦、ガザの教訓を適用=イス

ワールド

トランプ氏、不法移民対策で新たな大統領令 南部国境
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 5
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    【クイズ】長すぎる英単語「Antidisestablishmentari…
  • 8
    トランプ就任で「USスチール買収」はどう動くか...「…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中