ディズニー映画から「本物の悪役」が姿を消したのはなぜ? いつから?
Disney’s Defanged Villains
正統派の悪役の衰退はスーパーヒーロー映画の変遷と重なる。『バットマン』シリーズを筆頭に、1990年代のスーパーヒーロー物では極悪な怪物がケレン味たっぷりに大暴れし、主人公より目立つほどだった。
例えば95年の『バットマン・フォーエヴァー』。トゥーフェイスの悲運とリドラーの自己顕示欲は哀愁を感じさせたが、それぞれを演じたトミー・リー・ジョーンズとジム・キャリーは共感を呼ぶために抜擢されたわけではない。どちらも手本にしたのは、89年の『バットマン』でジョーカー役のジャック・ニコルソンが見せた怪演だ。
対照的に、2000年代に始まったディズニーのスーパーヒーロー・シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は常々、悪役の影が薄いと批判されてきた。確かに『アントマン』の悪役(コリー・ストール)を覚えている人はいないだろう。
もっともディズニーはこうした枠組みの中から、時おり真に陰影豊かな悪役を誕生させる。その1人が『ブラックパンサー』のエリック・キルモンガー。マイケル・B・ジョーダンの胸に迫る演技はキルモンガーの憤りに説得力を持たせ、敬意すら抱かせた。
観客の心をつかむ悪党の条件は?
『スター・ウォーズ』続3部作の悪役カイロ・レンは、葛藤する姿が魅力。実力派アダム・ドライバーがニヒルなすごみを発散しつつ少年の繊細さをにおわせて、観客の心をつかんだ。
一方、共感を呼ぶ目的で作り込まれた実写版のクルエラに、もはやオリジナルの面影はない。『クルエラ』はヒロインが闇に落ちた経緯を掘り下げることをせず、単純に彼女から邪悪さを消し去った。
ストーン演じるクルエラはオリジナルのクルエラというよりも、『バットマン リターンズ』でミシェル・ファイファーが演じたキャットウーマンに近い。キャットウーマンに怪人ペンギンの哀れな生い立ち話を付け足した感じ、といったところだ。
キャットウーマンやペンギンは少なくとも危険な悪者だが、クルエラは正義の味方をやっつけたりしない。むしろ彼女の憧れの人であり、上司、ライバルとなるバロネス(エマ・トンプソン)のほうが一枚も二枚もうわての悪女だ。
映画はヒロインがアンチヒロインになった瞬間すら描かない。ただエンドロールの途中で彼女がもう1人の自分になることを誓い、これからは悪逆非道になることをほのめかす、ほとんど無意味な場面が挿入されるだけだ。
クルエラはストーンのはまり役だが、変人ぶりを力演し過ぎて邪悪さを出せなかった感もある。いずれにせよ、観客席で眺める分にはストーン版クルエラは文句なしに楽しいし、バロネス役のトンプソンもいい味を出している。