最新記事

ワクチン

「ワクチン接種の義務化がワクチン接種の普及を妨げるおそれ」との調査結果

2021年6月16日(水)19時00分
松岡由希子

ワクチン接種の義務化はむしろワクチン忌避を助長する ozgurcankaya-iStock

<独コンスタンツ大学の研究チームは、ドイツで新型コロナウイルスワクチンの義務化に対する意識調査を実施した>

新型コロナウイルスワクチンは、日本を含め、多くの国々で任意接種とされており、接種するかどうかは国民ひとり一人の意思に委ねられている。

ワクチン接種の義務化はむしろワクチン忌避を助長する

一方、スペイン北西部ガルシア州では、2021年3月、成人に新型コロナウイルスワクチンの接種を義務づけ、違反者に罰金を科している。イタリアでは、2021年4月、介護従事者に新型コロナウイルスワクチンの接種を義務づけた。

また、米カリフォルニア大学(UC)とカリフォルニア州立大学(CSU)は、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認が得られれば、2021年秋学期から、新型コロナウイルスワクチンの接種を教職員や学生に義務づける方針だ。

しかしながら、ワクチン接種の義務化はむしろワクチン忌避を助長し、ワクチン接種の普及を妨げるおそれがあることが明らかとなった。

公的機関への信頼レベルが低いとよりワクチン摂取意欲を減退

独コンスタンツ大学の心理学者で行動経済学者のカトリン・シュメルツ博士らの研究チームは、新型コロナウイルス感染拡大によりドイツで都市封鎖が実施された2020年4〜5月の「第一波」と10〜11月の「第二波」に、ドイツ人2653名を対象として、新型コロナウイルスワクチンの義務化に対する意識調査を実施。

その研究成果を2021年6月22日付の「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した。なお、ドイツでは一貫して、新型コロナウイルスワクチンは任意接種とされている。

この意識調査によると、「第二波」では1日あたりの感染者数が「第一波」の15倍に増加したにもかかわらず、ワクチン接種の義務化を支持した割合は「第一波」の44%から「第二波」では28%に低下し、これを「全く支持しない」と答えた割合は「第一波」の23%から「第二波」では30%に上昇した。女性はワクチン接種の義務化により消極的であり、東ドイツで生まれた人はワクチン接種の義務化をより支持する傾向にあった。

研究チームは、個人がワクチン接種に応じる大きな要因として、連邦政府や地方自治体、科学界、メディアを含めた公的機関への信頼をあげ、「ワクチンの義務化は、とりわけ公的機関への信頼レベルが低い人々で、ワクチンを接種したいという意欲を減退させる」と指摘する。また、この他の要因として、ワクチンの有効性への疑念や個人の自由への制限に対する反発もあげられている。

任意接種であれば波及効果が期待できる

ワクチンが任意接種であれば、当初はワクチン接種をためらっていた人々も、家族や友人ら、身近な人が接種する様子をみることで考えを改める可能性があり、ワクチンの接種者は次第に増えていく。このような波及効果が広がれば、ワクチンを義務化することなく、集団免疫を達成することも可能だ。

研究論文の責任著者で米サンタフェ研究所のサミュエル・ボウルズ研究教授は、ワクチン接種の義務化がもたらす負の作用として「ワクチンを接種しようという個人の意欲を削ぎ、任意接種であれば期待できたはずの波及効果を減少させるおそれがある」と指摘。「為政者は義務化のコストを慎重に検討することで、痛手となる誤りを回避できる。ワクチン接種の義務化は、反ワクチン接種を増加させるだけでなく、国民を政府や専門家からさらに遠ざけ、社会的葛藤を深刻化させるおそれがある」と警鐘を鳴らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中