政治家・菅義偉の「最大の強み」が今、五輪の強行と人心の離反を招く元凶に
An Exit Plan
日本をめぐる外交環境の変化で、苦境に立つ菅氏に一筋の光明が差すとみる向きもある。4月16日の日米首脳会談で、菅氏はジョー・バイデン米大統領が初めて直接会った外国指導者となった。バイデン政権は3月に公表した暫定版国家安全保障戦略指針で中国を「安定した開放的な国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」に位置付けており、対抗措置として、日米豪印の「クアッド」や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の重要性が増している。そうした枠組みを実効的に運用していくためには、経済安全保障を踏まえた緻密な利益調整が必要となる。
インドのナレンドラ・モディ首相、オーストラリアのスコット・モリソン首相と異なり、菅氏は「番頭政治」のプロでもある。バイデン大統領にとってこれほど頼りになる同盟国の首脳はいないかもしれない。
国民が何を求めているのか
実際に戦後日本で長期政権樹立に成功した首相には、日米の蜜月関係を外交の基軸にしたという共通点がある。逆に対中融和路線を打ち出し短命に終わった首相もいた。
しかし、菅政権は党内主要派閥間の微妙な均衡の上に成り立っている。クアッドやFOIPの実務的要という役割を果たすには、反中と親中で揺れ動く自民党内の天秤を安定させるだけでなく、連立政権を組む公明党との間の天秤を保つことも必要となる。そうしたバランシングに失敗すれば、外交分野の得点で内政の失点を補おうとしてもおぼつかない。
コロナ禍で不安な国民が求めているのは、何よりもまず内政の安定であり、首相の丁寧な説明と臨機応変な対応だ。首相の言葉と行動に、国民は指導者としての高潔性(インテグリティ)を見いだす。菅氏には、安倍前首相と異なりイデオロギー的な岩盤支持層は存在しない。しかし徒手空拳で農村から上京し、議員秘書から宰相に上り詰めた努力の人を応援し、「巧言令色少なし仁」を地で行く口下手に好感を持つ人がいないわけではない。
ワクチン接種が進めば、いずれはコロナ禍も収まっていく。五輪と総選挙さえ乗り切れば、菅政権は望外の長期政権になるかもしれない。移り気な無党派層だけでなく、期待してきた庶民層が愛想を尽かさなければ、だが。