最新記事

世界経済

コロナで危機に瀕したグローバル化...だが貿易のメリットを世界が再評価し始めた

GLOBALIZATION STILL ALIVE AND WELL

2021年6月15日(火)19時24分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
グローバルなサプライチェーン(イメージ)

パンデミックで一時的に途絶えた人、物、カネの流れが加速する ADVENTTR/ISTOCK

<パンデミックをきっかけにサプライチェーンの国内回帰が叫ばれたが、世界の貿易量は再び急増している>

主要国の経済が再び成長軌道に乗り始めるに伴い、世界の貿易は力強く回復している。この明るいニュースはもっと注目されていい。わずか1年足らず前には「経済のグローバル化は終わった」との大合唱が聞かれたものだ。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がサプライチェーンを寸断し、輸入頼みの危うさに気付いた各国政府は重要な製品の生産拠点を国内に戻す「リショアリング」を奨励し始めた。

今では見通しははるかに明るい。貿易は主権を脅かすより、繁栄をもたらす可能性が大きいと各国は気付き始めた。WTO(世界貿易機関)は今年の世界の貿易量の伸びを前年比8%増と予測。昨年の5.3%減を相殺して余りある増加だ。

確かに、昨年42%も減った外国直接投資はいまだに伸び悩んでいる。だが、貿易と投資ではパンデミックの影響は異なる。国境を越えるモノの移動はさほど対人接触を伴わないが(例えばコンテナの積み降ろしはクレーンの遠隔操作でできる)、外国に新たに事業拠点を築くには、提携先との対面での交渉や政府への許認可申請が必要で、渡航制限がある状況では難しい。だが感染状況が落ち着けば、資金の流れも急速に回復するだろう。

強靭だったグローバルな供給網

しかも今回のパンデミックで、グローバルなサプライチェーンが予想外に強靭なことが分かった。サプライチェーンというと、1つのサプライヤーが駄目になると、連鎖的に全体にダメージが及ぶイメージを持ちがちだが、実態はむしろ相互に結ばれたサプライヤーのネットワークに近い。

企業は重要な部品について複数の仕入れ先を確保している。世界中に販売網を持つ多国籍企業は原料や部品の供給網も世界に広げている。パンデミックは国境を越える分業体制を縮小させるどころか、複数の受託先を持ち、緊急時にも生産の流れが途絶えないようにする「マルチソーシング」を強化させる結果となった。

確かに、昨春のマスクなどが世界的に品薄になった時期や今年に入ってワクチン接種が始まった当初はほぼ例外なく、どの国の政府も貿易に介入した。だが個人防護具やワクチンは感染防止には不可欠でも、経済に占める割合はごくわずかだ。

問題は、その他多くの輸入頼みの重要な製品が緊急時に入手困難になることを警戒して、各国政府が保護主義的な措置を取ること。そこで欧州委員会はEUの現状について調査した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月利下げが適切 以後は慎重に判断─シュナ

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中