東南アジア最悪レベルの感染拡大、マレーシアで何が起きているのか
「完全ロックダウン」で商業施設からも人影が消えた(6月1日) LIM HUEY TENGーREUTERS
<変異株などの拡大で今になって急速な感染拡大に見舞われており、「完全ロックダウン」への反発が政変に繋がる可能性も>
マレーシアは6月1日、2週間に及ぶ全土の「完全ロックダウン(都市封鎖)」に踏み切った。新型コロナの急速な感染拡大で医療機関が逼迫しているためだ。
5月28日、1日当たりの新規感染者数は8290人と4日連続で過去最多を更新。翌29日には9000人を上回った。ムヒディン首相は31日のテレビ演説で「直ちに抜本的措置を講じなければ医療システムが崩壊し、さらなる大惨事を招く」と危機感をあらわにした。
ロックダウン中は食料品など生活必需品を売る店舗のみ営業を認め、外出は居住地から半径10キロ以内に制限。14日までに感染者数が減少すれば、経済活動の完全再開に向けて段階的に操業可能な業種を広げていくという。
マレーシアは2020年のパンデミック(世界的大流行)の際は最悪の事態を免れた。だが最近の感染拡大には感染力の強い変異株も含まれ、封じ込めに苦戦している。イスラム教徒が多数を占めるため、5月中旬のイスラム教のラマダン(断食月)明けの3日間にわたる祝祭「イード・アル・フィトル」も感染拡大に拍車を掛けた可能性がある。
人口当たりの感染者数では最悪
この祝祭前に人の移動を制限する部分的閉鎖が実施されたが、感染拡大は抑えられなかった。公式発表では6月4日の新規感染者数は8209人、累計感染者数は59万5000人に達している。
累計感染者数で見ればマレーシアは東南アジアではインドネシアとフィリピンに次いで第3位だが、人口当たりの感染者数では最悪だ。死者数も東南アジアで4番目に多い。
今回のロックダウンは、昨年の規制の影響から回復し始めたばかりの経済に打撃を与えそうだ。トヨタ自動車やホンダなど日本の自動車メーカーは6月1日からマレーシア工場の操業を停止。20年のGDPはロックダウンの影響で前年比5.6%減と1997~98年のアジア金融危機以来の急激な落ち込みになり、ムヒディンは新たなロックダウンは行わないと断言していた。
今回のロックダウン前日、ムヒディンは400億リンギット(約1兆660億円)の追加経済対策を発表。給付金21億リンギット(約560億円)、一部の融資返済猶予、中小企業への助成金、ロックダウンの影響を受けた人への給与補助が含まれるという。マレーシアは昨年のパンデミック以降、既に3000億リンギット(約7兆9950億円)を超える経済対策を実施している。