最新記事

ランサムウェア

米司法省特殊部隊、ハッカーに支払われた身代金を仮想ウォレットから奪還

Millions of Dollars in Bitcoin Paid to Hackers in Colonial Pipeline Cyberattack Reclaimed, DOJ Says

2021年6月8日(火)16時47分
アレクサンドラ・ハツラー
コロニアル・パイプライン

インフラのコントロールをハッカーに奪われてはならない(写真は、身代金を払って操業を再開したコロニアル) Hussein Waaile-REUTERS

<システムを人質に取って企業に身代金を要求するランサムウェアの言いなりになれば、社会は大混乱に陥る。ビットコインで支払われた身代金を取り返したのは反撃の第一歩だ>

燃料を送油するパイプラインを運営する米コロニアル・パイプライン(以降、コロニアル)がサイバー攻撃を受け、米国最大のパイプラインが5月7日に一時的に操業停止に追い込まれた事件について、米捜査当局は6月7日、暗号資産ビットコインで支払われた数百万ドル相当の「身代金」の大半を取り戻しと発表した。

米司法副長官リサ・モナコは6月7日の記者会見で、「米司法省は、5月にランサムウェア攻撃を受けてコロニアルが(ハッカー集団)ダークサイドに支払った身代金の大半を押収した」と発表した。

モナコはまた、「ランサムウェアによる攻撃は断じて許容されてはならない」と述べた。ランサムウェアは、ウイルスを送り込んでシステムを乗っ取り、身代金を要求する攻撃手法。「攻撃対象が重要な社会基盤である場合はとくに、いかなる手段をもってしても対処する」

身代金を奪還したのは、米司法省が最近設立したばかりの「ランサムウェア&デジタル恐喝タスクフォース」だ。タスクフォースは、ダークサイドが身代金を回収するために使用したビットコイン・ウォレットを仮想空間で探し当てたという。

回収したのは63.7ビットコインで、現在の相場では約230万ドルに相当する。米司法省によれば、コロニアルがダークサイドに身代金を支払ったのは約75ビットコイン(高値だった当時の相場では約440万ドル)だったという。

コロニアルの最高経営責任者(CEO)ジョセフ・ブラウントは5月19日に米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に応じ、身代金を支払った理由として、そうしなければパイプラインがいつ復旧できるかわからなかった、と答えた。

「(身代金支払いが)大きな議論を呼ぶ決定であることは承知している」とブラウントは続けた。「安易に決断したわけではない」

「形勢は逆転した」

ランサムウェアによる攻撃を受けたコロニアルは5月7日、5500マイル(約8800キロメートル)に及ぶ全米最大級のパイプラインの操業を一時停止した。アメリカ東海岸で消費される燃料の45%を供給するパイプラインが止まったせいで、パニックになった人々が燃料を買い占めたり、ガソリンスタンドで在庫が不足したりする事態となった。1ガロン当たりの全米平均ガソリン価格は2014年以来初めて、一時3ドルを上回った。

だが身代金を支払った後、5月13日からはシステム全体を再開して通常操業に戻っている。

米司法副長官のモナコは6月7日の会見で、ダークサイドとその関係者は2020年の大半、「米国にサイバーストーキングを仕掛け、われわれの重要な社会基盤を支える主要組織などを対象に無差別攻撃を行ってきた」と語った。「しかし本日、形勢は逆転した」

(翻訳:ガリレオ)

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中