最新記事

コミュニケーション

NASAには宇宙飛行士のけんか対処法がある...対立を収めるプロの技術とは

Astronauts Have the Best Fights

2021年6月18日(金)11時35分
デービッド・エプスタイン
宇宙飛行士(イメージ画像)

ストレス耐性の高い宇宙飛行士もミッション中は衝突が絶えない CHAINATP/ISTOCKーGETTY IMAGES PLUSーSLATE

<宇宙飛行士からギャング、政治家、夫婦まで対立構図を分析。関係悪化を防ぐコツ満載の新著『敵対』の教訓とは>

火星探査をシミュレートするため、宇宙飛行士役の男性6人がモスクワのとある約70平方メートルの居住空間で17カ月間共同生活を送った。すると争いが頻発、深刻な事例は50件に上った。4人が睡眠障害を訴え、1人は鬱状態に陥った。

この実験に参加したのは本物の宇宙飛行士ではないが、宇宙飛行士といえばストレス対処力は折り紙付き。それでも対立は確実に、そして頻繁に起きる。「どんな宇宙ミッションにも対立は付き物」だと、ジャーナリストのアマンダ・リプリーは言う。

リプリーは新著『敵対/人が敵対関係にはまる理由とそこから抜け出す法』(サイモン&シュスター刊)で宇宙飛行士、ギャング、政治家から夫婦まで多様な関係を考察した。「私vsあなた」「私たちvs彼ら」の構図でいがみ合う敵対関係も、テクニック次第で建設的な話し合いに持っていけると彼女は言う。

NASAのミッションで最もありがちなのは、乗組員と管制室の対立だ。「両者のやりとりには無駄も多い」と、リプリーは指摘する。

10年以内に火星に人を送りたいNASAは対策に本腰を入れ、その結果「コミュニケーションの速度を落とし、反復による確認を徹底することが必要」だと悟ったという。

大切なのは問題の本質を知ること

リプリーは一流の書き手だから、『敵対』はこうしたエピソードを読むだけでも面白い。だがよりよいコミュニケーションの土台を築くためのヒントも充実している。その中から3つ紹介しよう。

まず大切なのが、問題の本質を知ること。「多くの場合、争点と、その奥に潜む本当の問題は別物。全ての対立には、いわば裏の事情が存在する」と、リプリーは言う。

『敵対』に登場するある夫婦は、離婚に際しレゴの所有権をめぐって泥沼の戦いを繰り広げた。当時は気付かなかったが、おもちゃを奪い合ったのはそれが夫婦にとって子供への愛情の象徴だったからだ。

問題の本質に気付かず手遅れになるケースは多い。口論がヒートアップしたら一歩退き、双方が本当は何に腹を立てているのか見極めよう。

「理解を深めるおうむ返し」も効果大。これは相手に言われたことを即座に自分の言葉で投げ返し、その上で「あなたが言いたいのはこういうこと? 私の理解が足りない部分はある?」と確認するテクニックだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中