ワクチンvs変異株、パンデミックが想定以上に長引く可能性
BEWARE A WINTER SURGE
変異株に対抗するには、その社会に存在しているウイルスの総量を減らすのが一番だ。そうすれば感染の発生場所を迅速に特定し、封じ込めやすくなり、ウイルスが変異を起こす機会も減る。国外から変異株が侵入する可能性はあるが、それだけなら公衆衛生当局も対応しやすい。
だから、とウイルス学者のムーアは言う。
「陰謀論をばらまくQAnonやクレイジーな共和党政治家の話をうのみにしてワクチン接種を拒むアメリカ人が相当数いる限り、この国全体を正常な状態に戻す努力は報われないだろう」
さらなる感染症の出現は確実
だが最終的には、アメリカの安全は世界の流行状況に左右される。ウイルスに感染する人が多ければ多いほど、ウイルスが危険な、新しい形に変異する余地が増える。
「ウイルスの拡散を抑えれば抑えるほど、突然変異の余地は減る」とコーバーは言う。「だからワクチン接種と適切なマスク着用、社会的距離の確保は、ウイルス進化の可能性を減らすことにつながる」
世界中の国ができるだけ早く国民全員のワクチン接種を済ませることは、アメリカをはじめ世界のあらゆる国にとって利益となる。
だがその取り組みは予定より遅れている。
途上国へのワクチンを分配する国際的枠組みであるCOVAXは、年末までに最貧国の人口の20%に接種できるワクチンの配布を目指しているが、インドの感染爆発でワクチンの製造も出荷も停滞している。
だがCOVAXの問題はもっと前から始まっていた。裕福な国々が昨年にワクチンメーカーと契約を結んでいた頃、COVAXにはまだ必要な資金がなかった。事前にもっと多くの支援を受けていたら、貴重な時間を節約できていただろう。
「このパンデミックが終わっても地球温暖化や砂漠化、急激な都市化や人口増加に伴い、さらに多くの感染症の大流行が確実に起きることを覚悟しておくべきだ」と言うのは、途上国での予防接種に取り組む機関Gaviアライアンスの責任者でCOVAXの幹部でもあるセス・バークリー博士。
「それが分かっているのだから、それに備えなくては」
もう1つの重要な措置は、新しいウイルスやその変異株を監視し、追跡する科学者を支援する正式な機構を確立することだ。
バイデン政権は、アメリカで変異株の特定・追跡に当たる研究者に17億ドルの資金を投じるという。悪くない。しかし本当にウイルスの脅威を封じ込め、再びのパンデミックを防ぐには、もっと大規模で国際的な取り組みが必要だ。
世界は狭い。地獄絵図のインドとアメリカの首都ワシントンは、飛行機でわずか15時間の距離だ。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら