ワクチンvs変異株、パンデミックが想定以上に長引く可能性
BEWARE A WINTER SURGE
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<科学者たちはウイルスの進化を追跡してきた。「今あるワクチンは依然として有効だ。新たな変異には実験室で対応するしかない」と米ロスアラモス国立研究所のコーバー博士は言う(後編)>
※前編より続く:ワクチン接種進むアメリカで「変異株の冬」に警戒が高まる
今後の感染状況にまつわる不確実性を特定の変異株のせいにしてしまえば、新型コロナウイルスとの闘いの複雑性や困難さを見誤ることになる。
そもそもウイルスは変化する環境に適応し続けるものであり、変異株の出現はその過程のスナップショットにすぎない。
1年以上前のパンデミック発生時、科学者たちはこのウイルスの進化を追跡する作業を始めた。感染者から検体を採取してゲノム配列を確定し、データベースに登録して世界で共有したのだ。
その代表格である情報データベースGISAIDには、172カ国で採取された新型コロナウイルス感染者の検体140万件以上のゲノム配列が登録されている。問題は、どの配列の違いが新たな脅威となるかだ。
この問いに答えを出す役割を担う1人が、米ロスアラモス国立研究所(ニューメキシコ州)の計数生物学者ベッティ・コーバー。何十年も前からエイズウイルスの研究に携わってきた人物だ。
エイズウイルスは新型コロナウイルスよりもはるかに素早く変異する。しかし今は、エイズワクチンも治験段階に入っている。
コーバーは今般のパンデミックを受けて自身の引退を棚上げにした。そして今は、山と積み重なる新型コロナウイルスのゲノム配列とにらみ合って長時間勤務を続けている。
公衆衛生当局は当初、新型コロナウイルスは変異するのが遅いと言って一般の人々を安心させた。科学的には正しい見解だ。複製の正確さを確認する「校正」機能を持つため、そうでないウイルスよりは変異の確率が下がる。
しかし、新型コロナウイルスはエイズウイルスやインフルエンザと同様なRNAウイルスなので、変異を得意とする。それに、変異の速度は遅くてもウイルスの数が多い。
なにしろ感染者は1億人以上。変異を繰り返し、強い者が生き残って増殖する機会は山ほどある。
昨年3月から、コーバーは感染拡大に伴うウイルスの進化を追跡するツール作成に携わり、巨大な「進化系統樹」を作成して強力な変異株を特定する努力を続けてきた。
次なる課題は、数ある変異株との生存競争を勝ち抜く条件は何かを解明することだった。
成果が出るのは早かった。昨年の春、コーバーらは「懸念される変異株(VOC)」としてD614G変異を特定し、これにダグというニックネームを付けた。
ダグは最初に中国の武漢で出現したウイルスに比べて複製のスピードが速く、3カ月後には世界で支配的な変異株となっていた。調べてみると、感染力が強くなる変異が起きていた。