最新記事

中国

ウイグル「ジェノサイド」は本当だった:データが示すウイグル族強制不妊手術数

2021年5月20日(木)14時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
ウイグル人たちの中国政府への抗議デモ

ウイグル人たちの中国政府への抗議デモ(2020年10月、トルコのイスタンブール) Murad Sezer-REUTERS

多くのウイグル人が中国にいる親族友人が強制避妊手術を受けていると訴えてきたが、なかなか客観的データとして示されなかった。このたび不妊手術総数と出生率のデータを入手したので、ここに真実であることを示す。

とびぬけて多いウイグルの不妊手術総数割合

まず単刀直入にデータから先に示そう。

2019年の『中国保健衛生統計年鑑』(国家衛生健康委員会編集)には表「8-8-2」として「2018年各地区計画生育手術状況」というのがある。ここには中国の全ての省市自治区の「節育手術総数」が示されている。

用語を説明すると「計画生育」というのは「一人っ子政策を推進するために中国政府が1978年から行ってきた計画懐妊・出産」のことで、一人っ子政策は2015年に撤廃され、「都市では2人」まで、「農村では3人」まで子供を産んでいいという方針に変わった。「節育手術」というのは、「子供を産まないようにするための手術」で、これは「産めないようにするための手術」と「懐妊した後に堕胎する手術」などに分かれる。

年鑑の228頁目にある表「8-8-2」には「産めないようにするための手術の種類」が細かく分類して書いてあるので、表全体をこのページに示すと、文字が小さくなって非常に見にくくなるので、独自の工夫を試みて、「手術数の多いトップ10」の省市自治区だけを示すことにした。

それも表「8-8-2」には、手術を施した絶対数のみが示されているので、各地区の人口との割合を見ないと、中国全土での「トップ10」は出てこないので、国家統計局のデータに基づき各地区の人口を調べ、その人口で割り算した「人口当たりの手術総数」という形で計算し直し、新たにグラフを作成した。

210520endo.png
『中国保健衛生統計年鑑』と国家統計局データに基づき筆者が独自に作成

こうしてグラフで示すと、新疆ウイグル自治区の「人口当たりの不妊手術総数」が、飛び抜けて多いことが一目瞭然だろう。2018年データなので、2015年の「一人っ子政策」撤廃後のデータであることを頭に入れておいていただきたい。

解説は最後に回す。

「一人っ子政策」撤廃後に急減するウイグルの出生率

次に『新疆統計年鑑2020』(新疆ウイグル自治区統計局と国家統計局新疆調査総隊が編集)から、新疆ウイグル自治区における出生率の推移を、全国平均と比べて示す。新疆ウイグル自治区のは青線で、全国平均(国家統計局データ)は赤線である。

210513endo2.png『新疆統計年鑑2020』と国家統計局データに基づき筆者が独自に作成


2015年に「一人っ子政策」が撤廃されたため、全国平均を見ると2016年にわずかながら出生率の増加が見られる。その後増加してないのは、第二子を生む年代が一人っ子政策で育ったために二人以上の子供を持つ生活習慣に慣れていないことと、何よりも高い教育費や家賃(あるいは住宅ローン)などの必要経費に基づく生活設計で生きてきたので、新たな負担を好まないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは7カ月ぶり139円台、米関税懸念の

ビジネス

情報BOX:トランプ米大統領はパウエルFRB議長を

ビジネス

マツダ、希望退職者500人を募集 50歳以上の間接

ワールド

タイ産業景況感、3月は3カ月ぶり低下 米関税など懸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中