ミャンマー、拘束中のスー・チーが初出廷 軍政はNLD解党を画策
軍政はNLD解党に向け動く
軍政側はこの公判に先立つ5月21日に既成の政党関係者を招集して選挙管理委員会をネピドーで開催した。その席で軍政が任命したテイン・ソー選管委員長は「昨年11月実施の総選挙での不正行為は国家への裏切り行為であり、我々はNLDの解党を真剣に考えている」と述べて、スー・チー氏率いるNLDを今後「法的」に解党に追い込む考えを示した。
軍政はクーデター後に「2年以内に総選挙を実施し、勝利した政党に政権を委ねる」との姿勢を示している。しかし現状で再度総選挙をしても「NLD」の圧倒的勝利が確実視されていることから、NLDを「解党」に追い込むことで次の総選挙には軍に近い政党の勝利を画策しようとしていることは明らかといえる。
またこの日の選管の会議からNLD関係者は排除されており、「欠席裁判」の形で事態は進んでいる。
24日にスー・チー氏が「国民のために創設されたNLDは存続する」とした発言もこうした軍政によるNLD解党への動きを牽制し、国民に忍耐を呼びかけたものとみられている。
相次ぐ不穏な情勢、化学兵器使用情報も
こうした状況の中でもミャンマー各地では少数民族の武装勢力や一般市民、さらに武装した市民防衛組織などによる軍政への抵抗運動、軍の拠点などへの攻撃は激しさを増しているのが現状だ。
5月23日には中部の都市マンダレーで大学生組合員や修道会関係者による反軍政デモが当局の監視をかいくぐる形で行われた。5月24日には東部カヤ州デモソで地元政府建設事務所や郡区事務所が何者かに放火されて炎上したほか、西部チン州ミンダでは市民らが当局の目を逃れるため室内で「不服従運動(CDM)」を実施。市内では市民と軍の衝突もあったという。さらに北部カチン州タウングーなどで知事事務所の放火、爆弾の爆発などが相次いだと地元独立系メディアは伝えている。
こうした動きの中で注目するべき情報は、24日のチン州ミンダでの衝突で現場にいた多くの市民が「白い煙のようなものが漂い、その後めまいや吐き気がした」と報告していることだ。独立系メディアの「キッティッ・メディア」は軍が一種の化学兵器を使用したのではないかとの見方を伝えた。
刺激性の強いガス弾のよる影響の可能性もあり、現時点で事実確認はできていないが、これまでの報道で「化学兵器」使用の可能性に言及したのは初めてとみられ、今後の市民らによる抵抗運動にも影響が出そうだと現地では警戒感が高まっているという。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など