91歳になるイーストウッドが「引退はしない」理由
「毎回、必ず新しいことを発見するんだ。だからこの仕事は楽しいんだ」
そしてイーストウッドの場合、テーマに尽きることはないのだ。好奇心旺盛で、常にいろんなものを読んでいる彼は、「これは自分がぜひ語りたい」と感じるストーリーにたびたび出会うのである。それらのストーリーは「ジャージー・ボーイズ」(2014)のような音楽グループについてのものであったりもするし、「インビクタス/負けざる者たち」(2009)のようなスポーツ物であったりもする。そういった違うテーマを手がけることで、毎回違うことを学ぶのが楽しいのだと、イーストウッド。
「ストーリーの語り方についてだったり、自分自身についてだったり、自分が雇った人たちについてだったり。毎回、必ず新しいことを発見するんだ。だからこの仕事は楽しいんだ。毎回同じ話を語るんだったら、やりたくないよ。それに、一緒に働く人たちがいてくれるしね。私にとってクルーは家族のような存在。彼らはとても長い間、私の映画のために働いてくれている」(2016年の筆者とのインタビューより)。
新作は、80年代後半に一度興味を示したことのある企画
そんな彼が長年のクルーとコロナ禍で撮影した次回作のウエスタン「Cry Macho」は、1975年からハリウッドに存在しながらこれまで日の目を見なかったプロジェクトだ。その間、権利は違った人たちの手にわたり、主演には、バート・ランカスター、アーノルド・シュワルツェネッガー、ピアース・ブロスナンなど、さまざまな俳優の名前が挙がった。
イーストウッドも80年代後半に興味を示したものの、「ダーティハリー5」(1988)に出るために諦めている。それが、周り回ってまた彼のもとに訪れたのだ。そんなふうに彼の心を刺激するものは、どこからでもやってくる。30年以上前に見た夢を、91歳の彼は、主演俳優として、そして監督として、どんな形で実現するのだろう。そして今年末、この映画が公開される頃には、彼の頭には次の作品のアイデアが渦巻いているはずだ。