鼻スプレー型ワクチン、各国で臨床試験へ 気道内の免疫形成に有利
中国カンシノ・バイオロジクス社のCEOによる説明も、これと一致する。氏は米CNBCに対し、気道からの接種が可能な吸入型ワクチンは、従来型よりも高い効果が見込まれると述べている。感染の発端となる気道内で抗体を活性化させるため、より強力かつ迅速な防御が可能だ。まずは鼻・喉の抗体とT細胞がウイルスと闘うが、ここで防御に失敗した場合でも通常のワクチンと同様に抗体が体内で迎撃するという、二重構造の防御が可能になるという。
鼻腔用スプレーの開発にあたっては、必ずしも専用のワクチンを開発せずとも、既存のものを活用できるようだ。オックスフォード大学の発表によると、イギリス版の試験では、既存のアストラゼネカ製ワクチンと同一のものを利用する。これを市販の花粉症スプレーなどと同等の鼻スプレー容器を使って接種する内容だ。
研究の責任者であるサンディ・ダグラス博士によると、疫学者のあいだでは、感染部位に直接ワクチンを投与することで、従来よりも高い免疫力が発揮されるとの予測があるという。感染防止の面で高い有効率を誇るほか、比較的軽度の症状の発症を防止する面でも有効だと考えられている。臨床試験で期待通りの作用が確認されれば、既存のワクチンと既存の噴霧容器を組み合わせるだけで、より高い効果を得られることになる。
予約して接種会場へ、の常識すら変わるかもしれない
噴霧式ワクチンにはこのほか、接種会場におけるウイルス蔓延の防止や、接種率の向上、そしてより容易な輸送管理など、多くの利点が見込まれる。
オーストラリアで試験が進む新型ワクチンは、アデノウイルスを用いた既存のワクチンをベースに、鼻腔スプレー用の改良を施したものだ。低温保存について従来求められていた厳しい要件が緩和されるほか、家庭での接種も可能になるのではないかと期待されている。ガーディアン紙は、「鼻腔スプレー用に手を加えられたアデノウイルスは、COVIDワクチンの第二世代として前途有望な分野」であると述べている。
また、注射針に対して拒否感を持つ人々は多数存在する。ラジオ・カナダは、カナダの人口の10%ほどが注射に対して恐怖感を持っているが、スプレー式ならばこの点をクリアできるとしている。さらに、家庭で自分で接種できるようになれば、接種会場に人々が詰め掛ける事態も防止できる。サイトファージ社は、感染に気づかない無症状の人々が接種会場に赴き、他の人にウイルスを広げるような事態を根絶できるのではと期待する。
注射型からの転換となれば、子供への効果も大きいだろう。イギリスの学校ではすでに、インフルエンザワクチンなどの接種を鼻腔スプレー形式で実施している。オックスフォード大学の研究者は、すでに親しみのあるこうした形式に改めることで、接種率が向上するものと予測する。臨床試験を進める英ジェナー・ワクチン研究所のエイドリアン・ヒル所長は、「これはCOVID-19の主要なワクチンを接種する、エキサイティングな新しいアプローチです」と述べている。
国内では接種率が1%と伸び悩むのをよそに、世界は一歩先のワクチンのあり方を探り始めている。