最新記事

ワクチン

鼻スプレー型ワクチン、各国で臨床試験へ 気道内の免疫形成に有利

2021年4月30日(金)18時30分
青葉やまと

中国カンシノ・バイオロジクス社のCEOによる説明も、これと一致する。氏は米CNBCに対し、気道からの接種が可能な吸入型ワクチンは、従来型よりも高い効果が見込まれると述べている。感染の発端となる気道内で抗体を活性化させるため、より強力かつ迅速な防御が可能だ。まずは鼻・喉の抗体とT細胞がウイルスと闘うが、ここで防御に失敗した場合でも通常のワクチンと同様に抗体が体内で迎撃するという、二重構造の防御が可能になるという。

鼻腔用スプレーの開発にあたっては、必ずしも専用のワクチンを開発せずとも、既存のものを活用できるようだ。オックスフォード大学の発表によると、イギリス版の試験では、既存のアストラゼネカ製ワクチンと同一のものを利用する。これを市販の花粉症スプレーなどと同等の鼻スプレー容器を使って接種する内容だ。

研究の責任者であるサンディ・ダグラス博士によると、疫学者のあいだでは、感染部位に直接ワクチンを投与することで、従来よりも高い免疫力が発揮されるとの予測があるという。感染防止の面で高い有効率を誇るほか、比較的軽度の症状の発症を防止する面でも有効だと考えられている。臨床試験で期待通りの作用が確認されれば、既存のワクチンと既存の噴霧容器を組み合わせるだけで、より高い効果を得られることになる。

予約して接種会場へ、の常識すら変わるかもしれない

噴霧式ワクチンにはこのほか、接種会場におけるウイルス蔓延の防止や、接種率の向上、そしてより容易な輸送管理など、多くの利点が見込まれる。

オーストラリアで試験が進む新型ワクチンは、アデノウイルスを用いた既存のワクチンをベースに、鼻腔スプレー用の改良を施したものだ。低温保存について従来求められていた厳しい要件が緩和されるほか、家庭での接種も可能になるのではないかと期待されている。ガーディアン紙は、「鼻腔スプレー用に手を加えられたアデノウイルスは、COVIDワクチンの第二世代として前途有望な分野」であると述べている。

また、注射針に対して拒否感を持つ人々は多数存在する。ラジオ・カナダは、カナダの人口の10%ほどが注射に対して恐怖感を持っているが、スプレー式ならばこの点をクリアできるとしている。さらに、家庭で自分で接種できるようになれば、接種会場に人々が詰め掛ける事態も防止できる。サイトファージ社は、感染に気づかない無症状の人々が接種会場に赴き、他の人にウイルスを広げるような事態を根絶できるのではと期待する。

注射型からの転換となれば、子供への効果も大きいだろう。イギリスの学校ではすでに、インフルエンザワクチンなどの接種を鼻腔スプレー形式で実施している。オックスフォード大学の研究者は、すでに親しみのあるこうした形式に改めることで、接種率が向上するものと予測する。臨床試験を進める英ジェナー・ワクチン研究所のエイドリアン・ヒル所長は、「これはCOVID-19の主要なワクチンを接種する、エキサイティングな新しいアプローチです」と述べている。

国内では接種率が1%と伸び悩むのをよそに、世界は一歩先のワクチンのあり方を探り始めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中