最新記事

イギリス

脱炭素「優等生」とされるイギリスの環境政策が、実は全く持続可能でない理由

NO CLIMATE LEADERSHIP

2021年4月30日(金)18時07分
ジェイミー・マクスウェル
英ジョンソン首相(2021年2月の国連オンライン会合)

ジョンソンの気候変動問題への本気度が問われる(今年2月の国連オンライン会合) STEFAN ROUSSEAUーREUTERS

<国際社会との関係修復を求めて温暖化対策を打ち出したが、脱炭素化の困難に直面するのは時間の問題かもしれない>

ボリス・ジョンソン英首相は挽回のチャンスを狙っていた。ブレグジット(イギリスのEU離脱)でこじらせた国際社会との関係を、いくらかでも修復する機会を探していた。

この英保守党のポピュリストは、それを環境保護の分野に見つけたらしい。ジョンソンは昨年11月、英グラスゴーで今年11月に開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を見据え、新たな温暖化対策「グリーン産業革命に向けた10項目計画」を発表。これは「温暖化対策に携わる数十万の雇用を創出・支援・保護しつつ、2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指す」ものだという。

このビジョンの達成は、口で言うほど簡単ではない。イギリスの温室効果ガス削減計画は今後10年のうちに暗礁に乗り上げる恐れがあり、そうなれば「環境外交」の成功は危うくなる。しかもイギリスの環境活動家たちは、これまで環境分野への関わりに消極的だったジョンソンの本気度を疑っている。

環境問題専門の情報サイト「カーボン・ブリーフ」によれば、イギリスは1990年から、二酸化炭素(CO2)の排出量を約38%削減した。主要先進国で最も大きな削減幅だという。だが環境保護団体グリーンピースUKで政策担当ディレクターを務めるダグ・パーは、イギリスの実績は見掛けほど素晴らしいものではないと指摘する。

いま振り返ってみれば、イギリスがCO2排出量の削減に成功してきたのは、歴代の政治指導者による賢明な政策決定の積み重ねによるところが大きい。

2008年にはゴードン・ブラウン首相率いる労働党政権が「気候変動法」を制定。50年までにイギリスのCO2排出量を80%削減することを義務付ける画期的な法律だ。13年にはデービッド・キャメロン首相率いる連立政権が、炭素価格を高くすることで低炭素への移行を促す「最低炭素価格」構想を導入した。

排出量ゼロへの動きを加速させたもう1つの重要な要素は、イギリスの石炭産業の崩壊だ。石炭は60年代にイギリスの1次エネルギー供給源の60%近くを占めていたが、今ではわずか3%程度。全体のCO2排出量に占める割合も無視できる程度だ。

石炭部門の衰退には、政治の影響もあった。80年代にマーガレット・サッチャー首相が、労働組合に対抗する取り組みの一環として全国各地の炭鉱を閉鎖した。その後、再生可能エネルギーや安価な天然ガスの台頭などによって、イギリス産の石炭は高過ぎて敬遠されるようになり、エネルギー市場から駆逐された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中