最新記事

韓国

韓国の慰安婦訴訟、2つの判決が正反対「天動説から地動説にもどった」

2021年4月27日(火)18時30分
佐々木和義

「文在寅政権の混乱と裁判所の人事が背景にある」

中央日報は文在寅政権の混乱と裁判所の人事が背景にあると分析する。

第1次慰安婦訴訟は、故裵春姫(ぺ・チュンヒ)氏ら12人の原告が、2013年8月に慰謝料を求める民事調停を申し立て、16年1月、裁判に移行。今年1月8日、日本政府に損害賠償の支払いを命じる判決が下された。
日本政府は1965年の日韓請求権協定と2015年の日韓慰安婦合意で解決済みという立場であり、また国家免除の原則を主張して裁判自体を認めていないことから控訴せず、1審が韓国の確定判決となった。

第2次慰安婦訴訟は李容洙(イ・ヨンス)さんら20人が2016年末に提訴した。今年1月13日に判決が下される予定だったが、「国家免除に関する追加審理が必要」だとして延期した。1次訴訟で国家免除を認めている国際司法裁判所(ICJ)や韓国最高裁と相反する判決が下されたため、裁判長が負担に感じて延期したという分析が出た。

1月に主張を180度転換した文在寅大統領

第1次訴訟後の1月18日、文在寅大統領が新年の辞で、2015年の日韓慰安婦合意が公式的な合意だったと認める発言を行い、1次慰安婦訴訟の判決に困惑していると話した。

文在寅大統領は就任前から「(慰安婦合意は)手続き的にも内容的にも重大な欠陥があった」と主張し、合意に基づいて設立された「和解・癒やし財団」を解散させており、それまでの主張を180度転換する発言だった。

その新年の辞から2週間後に定期人事異動があり、1次慰安婦訴訟で原告勝訴の判決を下したソウル中央地裁民事第34部の裁判官は全員交代となり、2次慰安婦訴訟を担当していた民事第15部の裁判長は留任した。

3月29日、新たに着任した民事第34部の裁判長が、日本政府に訴訟費用を強制執行するべきではないという決定を下した。経済的に厳しい人のため、訴訟費用の納付を猶予する制度を利用しており、日本政府に訴訟費用の負担を命じる判決を下していたが、日本政府から訴訟費用を受け取ることができないという判断を下したのだ。

「天動説から、国際的に確立された判断に司法が従う地動説に戻った」

2次訴訟で却下の判断が下された後、原告の李容洙さんは国際司法裁判所(ICJ)への提訴を主張した。また、慰安婦支援団体の正義記憶連帯が控訴する意向を示し、在韓日本大使館は、判決後の最初の週末にデモが行われる可能性があるとして在韓邦人に注意を呼びかけたが、新型コロナウイルスの新規感染者が4日連続で700人を超えたこともあり、デモが行われることはなかった。

中央日報が韓国を中心に世界が動く天動説から、国際的に確立された判断に司法が従う地動説に戻ったと論じるなど、概ね裁判所の判断を冷静に受け止めているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中