規範の日本、ルールの中国。規範に基づくコロナ対策は限界が見え始めた
東京の通勤客(4月6日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS
<内面化された規範と、厳格なルール。日中社会の好対照はコロナ対策にも反映されている。日本と異なり、中国は感染を制圧しているが、魔法のような監視技術があるわけではない>
「日本は本当に素晴らしい国です。日本人はみんな礼儀正しいし、ルールを守る国民なので、居心地がいい。ただ1つ、不思議なのが車の運転です。誰も制限速度を守りませんよね? 交通ルール通りのスピードで走っていると、追い抜かされたりクラクションを鳴らされたり。車に乗ると、日本人は性格が変わるんでしょうか」
素朴な疑問をもらしたのは、中国人の郭宇さん。昨年、日本に移民してきたばかりだ。趣味の温泉巡りのため、毎週末は車でドライブしているが、いつも不思議に感じているという。
彼の母国・中国の交通事情はと言うと、誰も制限速度なんて守らない混沌としていた時代から、近年大きく変化している。変化をもたらしたのは監視カメラだ。
主要都市の中心部には監視カメラが張り巡らされており、速度超過や車線変更、路上駐車などの交通違反を自動的に認識し、罰金を請求するシステムが導入されている。
AI(人工知能)の進化により細かな動きですら認識できるようになり、運転中の携帯電話通話にまで即座に罰金が科される。
新たなテクノロジーによって、劇的に交通環境が変わったわけだ。
もっとも、人々のマナーが変わったわけではない。監視カメラがある都市内ではジェントルな運転をしていたタクシードライバーが、郊外に出るやいなや爆走し始めるのはよくある話だ。
一方、日本人は規範を内面化している人が多い。警官や監視カメラによって見張られていなくても、ルールを守る人が大半だ。
というわけで、日本人と中国人の規範意識は好対照と言える。日本を訪問した中国人の多くが「日本は過ごしやすい」と感じるのは、監視の目がなければ相手が何をしでかすか分からない中国と比べて、ルールを守る日本人は安心できるから、ということのようだ。
ただし、内面化された規範は厳格なルールとは異なる。法律で決められた制限速度はあっても、「だいたい10キロオーバーまでは許容範囲」「ここの道路は広いから少し速度を上げてもいい」といった、法律で定められたルールとは異なった、ぼんやりとしたラインしか存在しない。
日本人の「ここまでは許される」ラインが変化してきた
ルールと規範をめぐる日中社会の好対照は、新型コロナウイルスの対策にも反映されている。
緊急事態宣言にせよ、まん延防止等重点措置にせよ、日本のコロナ対策は強制力が弱く、しかも人々が対策を守っているのかをチェックする仕組みは極めて少ない。社会の規範に基づく、人々の自発的な行動に多くを依存している。