最新記事

ミャンマー

内戦前夜、ミャンマーの緊張緩和に乗り出した中国

China Steps Up Efforts to Cool Down Myanmar Tensions Amid Fear of Civil War

2021年4月12日(月)18時19分
トム・オコナー

だが民主化に移行した後も、国軍は政治的影響力を持ち続けた。昨年11月の選挙ではスーチーのNLDが圧勝したが、軍のエリートたちはこの選挙に不正があったと主張。最終的に今年2月、力づくで政権を奪取し、10年におよぶ民主主義体制の時代を終わらせた。

中国は軍部批判に加わらず、代わりに関係者全員に冷静さを求めてきた。中国政府は、国軍およびスーチー政権の両方と緊密な関係を築き、さらにミャンマーとインドの国境付近で活動する武装勢力とも、一定の関係を維持していた。

その後中国政府はミャンマー国内での影響力をテコにして、すでに死者数百人に及び、急拡大する紛争を抑制しようとしてきた。これまでの死者の大半が、秩序回復をめざすミャンマーの治安部隊の攻撃によるものだったことが報じられている。

「ミャンマーの人々が団結して軍部に抵抗し、政情の安定に向けて民主的な政府による行動を求め、また増加し続ける経済、健康、人道的危機への対処を求めていることは認識している」と、米国務省の報道官は9日、記者団に語った。

一帯一路の重要地点

ミャンマー国軍による政権奪取をアメリカはクーデターと呼んでおり、中国に行動を起こすよう求めてきた。米国務省のネッド・プライス報道官は3月31日に記者団に対して、アメリカ政府は「中国政府が自国の影響力を使い、軍事クーデターを起こした者の責任を問う」ことを求めていると語った。

「ミャンマーで国軍が行ったことは、アメリカの利益にならない。パートナーや同盟国の利益にもならないし、中国政府の利益にもならない」と、当時プライスは述べた。

その翌日、プライスは米中の関係は様々な軋轢によって悩ましい状態になっているものの、「ミャンマーやその他の地域的課題に関しては」アメリカと中国の利益を「ある程度調整」することに言及した。

中国にとっての利益は、ミャンマーが中国の習近平(シー・ チンピン)国家主席が世界に張り巡らせる「一帯一路」構想の中心的役目を果たす立場にあることと結びついている。両国を結ぶ主要な輸送ルートと石油・ガスパイプラインは一帯一路の一環であり、「中国・ミャンマー経済回廊」と呼ばれている。

中国政府は、ミャンマーの激しい混乱に対応するなかで、ミャンマーの関係当局に対し、ミャンマー滞在中の中国国民と中国の利益を守るよう繰り返し要請してきた。だがそのための猶予もなく、ミャンマーの国内勢力は連帯して国軍と対峙し、内戦前夜の様相を呈してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インテル、20%超の人員削減を今週発表へ=ブルー

ビジネス

原油先物は約1%高、対イラン追加制裁や米原油在庫減

ビジネス

ロシアが25-27年の石油・ガス輸出収入予想を下方

ワールド

米厚生長官ら、食品の石油系合成着色料の使用禁止計画
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中